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瑠維と弓削が腕を振るった夕飯は、本当に美味しかった。
璃音も龍嗣も小鳥遊も舌鼓を打ち、食後のデザートも絶品だった。
事件が起きる前のような、穏やかな時間……。
二度と訪れないのだろうと思ったこともあった。
してしまった事の重大さに押し潰されそうだったのだろう。
瑠維が少量の酒で酔っ払って泣き出し、つられた小鳥遊も泣き出すハプニングもあったが、五人にとって幸せなひとときとなったのだった…。
片付けを終え、ソファーで眠る瑠維と小鳥遊を見て、弓削は片足を上げかけた。
「弓削さん。
気持ち良さそうに寝てるから、もう少し寝かせておこう?」
クスクス笑っている所を見ると、げしげし蹴りを入れようとしたのがバレてしまっているようだ。
「仕方ありませんね。
璃音さまが良いのなら、もう少し寝かせておきます」
龍嗣が持って来てくれたタオルケットをかけてやり、三人でウッドデッキへ出る。
夏特有の緑の香りや、乱舞する蛍を楽しみながら、龍嗣と弓削は軽い酔いの残滓を冷ます。
「璃音さま…」
「ん?」
「瑠維を許して下さり、ありがとうございました」
深々と頭を下げる弓削に、璃音は慌てて制止をした。
「弓削さん。
もういいんだよ。
時間がかかったけど、僕は恐さを克服出来たんだから…。
初めから龍嗣と弓削さんに話していれば、きっと、もっと穏便に物事が収まっていた筈だもの。
だから、謝ったりしないで」
「璃音さま…」
「璃音…?」
「解らないですよ?
あの当時に私と旦那様に話したからと言って、最善の事が出来たのかは、誰にも…解らないです」
「………そうだね…。
選ばなかった選択肢のあとがどうだったかなんて、解らないよね」
蛍に照らし出された璃音は、穏やかな顔で笑っている。
「だから…。
全部終わったこと…。
全部、すんでしまった事なんだから、もう謝るのは無し。
それに、もうお仕置きしちゃったでしょ?」
「……………。
そういえば、そうでしたね」
「そう。
だから、お終い」
悪戯っぽく笑う璃音につられて、弓削も龍嗣も笑い出す。
そぼ降る雨の中で佇む璃音に龍嗣が声をかけた、あの庭から始まった出来事が、ようやく区切りを迎えたのだった………。
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