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 式のあと、近親者での会食をして、龍嗣と璃音は氷室邸に戻ってきた。  二間続きの龍嗣の部屋に着き、一息つく。  一緒に風呂に入ろうかと声を掛けたが、真っ赤な顔の璃音が慌てて首を振ったので、苦笑いした龍嗣が先に入ることになった。  浴槽に浸かり、式の間の璃音を思い出す。  紗の向こうに透ける璃音は、儚げで美しく、何より愛しくて堪らなかった。  漆黒の瞳から零れる涙の一粒一粒まで愛しいと思えた。  その璃音が、一緒に風呂に入ろうかと声を掛けただけでドギマギする様は、妙に可愛らしくて仕方ない。  互いに知り尽くした間柄なのだから、そんなに萎縮しなくてもいいのにと、ついつい思ってしまう。  心地好い怠さは残るが、長湯をするのも何なので、上がることにした。  入れ違いに璃音がバスルームに向かう。  あわあわしていて、何だか可愛らしく見えた。  ベッドに座ってボウッとしていると、飛沫が璃音の肌や床を打つ音が微かに響いてきて、妙な気分になる。  艶やかな黒髪が濡れ、白磁のような肌が湯を弾き、シャワーを浴びる璃音が目に浮かび、慌てて首を振る。  別々に風呂に入るのは、璃音が目覚めてからは当たり前の事であったし、何とも思わなかったというのに、今日に限っては生々しく感じるのはどういう事なのだろう…。  心臓が早鐘を打ったようになり、耳元で鼓動が煩いほどに響いている。  さっきの璃音も、こんなふうに生々しく聞こえたのだろうか…。  キュ…ッ。  シャワーを止める音がして、歩く音がする。  ドアが開き、タオルで水気を拭き取り、夜着を羽織る。  ドライヤーで軽く髪を乾かし…。  カチャ…ッ。  ドアノブに手がかかった。 「…ごめんね。  …待たせてしまったよね…?」 「いや、気にしなくていい…」 「そ…?」  小首を傾げて笑う顔は、こんなに艶のあるものだったろうか…?  濡れた髪が張り付く首筋は、こんなに煽情的だっただろうか?  遠慮がちに歩いて来る璃音に向かって手を伸ばすと、怖ず怖ずと左手を載せてきた。 「ドキドキするの、僕だけかな…」 「いや、私もだよ」  軽く引いた手に従い、華奢な体が腕の中に収まる。  それがあたかも自然なように唇が重なり、あえかな声が鼻に抜け、更に深く唇が重ねられた…。

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