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第3話

 スモモくんは何かその後も一生懸命話してくれたけれど僕には何も聞こえなかった。  ショックを受けると頭の中が真っ白になると聞くそんな症状かと思った。けれど違った。  不思議なことに僕の耳は聞こえなくなっていた。  その時はまだ気づいていなかっただけで、僕はもうダメになっていたんだろう。    最初の異常は寝坊。    いつも朝早く食堂に出かけるスモモくんは僕に声をかけていく。  大声なので目覚まし代わりになるし数少ない同室者としてのやりとりだ。  完全に起きていてもいなくても寝ぼけた状態で扉越しでも僕は「いってらっしゃい」と声を返すようにしていた。  それなのに寝坊した。スモモくんの声に気が付かなかったとしてもケータイのアラームが聞こえなかったのはおかしい。  確認するとケータイにはメールと電話の着信が大量にあって僕はそれにも気づかなかった。    ここまでなら単純にショックから熟睡していたのだと思うところだ。  目の前でケータイが着信を告げる。それなのに僕には何の音も聞こえなかった。  サイレントモードにしていたのかと首をかしげる。    電話に出たが耳を当てても何も聞こえない。  相手は友人だったので彼の名前を呼びながら電波がおかしいのかと口にして違和感。  らちが明かないので電話を切ってメールでケータイの不調を連絡。    テレビをつけて見て違和感。  理由はすぐに気が付いた。音がしなかった。    少し考えて僕は手と手を勢いよく合わせる。  手のひらがじんじんするのに無音。  本当ならバンッと大きな音がするはずだ。そのぐらいの強さで手を叩いた。  それなのに無音。何の音もしない。あきらかにおかしかった。   「あー、あー?」    自分の中では声を出しているつもりだけれど音がしない。  電話をした時の違和感は自分の声がしないことのおかしさだったのだろう。  電波がなく相手の声が聞こえなかったとしても友人の名前を呼ぶ自分の声もしないなんておかしい。    さすがに大事だといつものご飯を食べているメンバーに今朝の事前説明のない朝食抜きをメールで謝罪して今後料理をするのが難しいかもしれないことをオブラートに伝える。  生活サイクルが変わってしまうので早く教えるに限るだろう。  何人かからすぐに心配の連絡が来た。  それにまだよく分からないけれど、病院に行かないといけないということと改めて連絡をするので詳しい事情はその時と告げた。    まずは保健室に行って事情を説明しないといけない。  着替えて手ぶらで出ていこうとして思い直してノートとペンを持つ。

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