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第7話

 メールも電話も榛名が嫌いだと聞いていたからしなかった。  疲れている夜に顔を合わせるのは嫌がられるから会いにも行けない。  朝に食堂で一緒にご飯を食べるのも一度嫌がられてから次はなかった。  どうして嫌がるのかとか恋人なら会いたいものだろうなんて言えるわけもない。  榛名に迷惑そうな顔をされるのが怖くて仕方がない。    相手に好きでいてもらいたいのならもっとリアクションをとるべきなのかもしれない。  スモモくんは積極的だ。天真爛漫でビックリするぐらいに楽観的で前向きに生きている。  僕とは全く違う。だから、僕と比べてスモモくんを好きになることを責められない。  毎日スモモくんから聞く榛名の姿に僕はどんどん不安になって臆病になっていた。    ただでさえのんびりしていて出遅れていたような僕。気づいた時には失っていた。  まだ失ってはいないけれど同じようなものだと心のどこかが諦めだした。  捨て身の行動なんて出来ない。  弱い心は決定打から逃げていた。    でも、少し考えればわかる。  スモモくんは素直な子で僕の同室者だ。  部屋で一日あったことを口にしないわけがない。  僕が榛名のことをスモモくんから聞いて知っているように榛名もまたスモモくんから僕のことを聞いているだろう。  そう思うと榛名から最後通告がなかったのではなく僕が気づいていなかっただけなのかもしれない。  スモモくんが語る親密になっていくスモモくんと榛名の姿。  榛名からすればスモモくんから間接的に僕への興味が失せていることを伝えてきていたのかもしれない。  自分から始めたような関係だから榛名は僕への別れを言いにくかったのかもしれない。  それを感じ取れなかったのは僕の至らなさだろう。    今後のことをノートに書いてまとめたので心配しているみんなに読んでもらうように見せる。  誰かが代表して読み上げるかと思ったらそれぞれが回し読み。プラスしてコメントを添えてくれた。    僕がノートに書いたのは改めてメールしようと思ったことだが主に食事の話だ。  料理は耳が聞こえないことで今までとは感覚が違ってしまうので質が落ちるかもしれないこと。  それでも構わないのなら今まで通りさせて欲しいこと。  イヤじゃなかったらメールやチャットなどで話をして欲しいこと。    そんなことを僕は書いた。身体は問題ない。  聞こえなくても文字は見える。考えることはできる。  僕自身は今まで通りだ。  きちんと人と意思疎通できる。  なら何とかやっていける。    担任の先生には保険医さんと一緒に事情を話した。  校内は未だにスモモくんと親衛隊のことで風紀が乱れているらしい。  誰かと常に一緒にいるように言われた。    友人を介助人にするわけにもいかないので少し困ってしまう。  すると僕のいわゆる顧客とも言えるご飯を食べているメンバーが名乗りを上げた。  どうやら担任の先生への報告を見守ってくれていたらしい。  音が聞こえないせいか気配というものにも疎くなったのか、気が付かなかった。  悪いと思ったけれど近くで支える人物の食事はいつもの定員に数えず好物のおかずを一品作ってあげるということでまとまった。  友人への待遇を僕を支えてくれる相手にも適応させただけであまり特別なことではない。  それでも彼らは十分だと笑った。

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