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第8話
はじめ、何が起こったのか分からなかった。
急に誰かに引っ張られたと思ったら見知らぬ場所にいた。
ワープとかそんな不思議な現象じゃない。
通称食事メンバーが常に二人僕と行動を共にする。
この三人行動は教師から義務付けられた正式なものだ。
一緒にいてくれる二人の好みのものをその日の朝と夜に作る。
食事は感覚を掴むために二十人ぐらいとすることになった。
みんな携帯端末を使ってテキストチャット形式で会話する。
旧時代の遺物なんて誰かが笑いながら意外におもしろいしレスポンスは口頭での会話と変わりない。
人によっては音声入力をしているので誤変換もあるものの意味は大体わかる。
友人からすると人数のわりに静かなのでこれは不気味な光景らしい。
ときどきは話しているみたいだけれど僕の前でみんな口を開かなくなった。
僕が聞こえないのに言葉を吐きだすのは目の前で内緒話をされるようなものだから気を遣ってもらえるのは嬉しい。
みんなが聞いて分かる言葉を僕だけが文字で遅れて教えられるのは耳が聞こえないことを理解していても気後れがある。
重要なことじゃなければ教えてくれなくても大丈夫だと伝えてはいるけれど、彼らは僕を蔑ろにしない。
普通に会話していたら何も聞こえない僕は一人で勝手に孤独に浸ることになる。
それを察してくれている彼らには頭が上がらない。
僕に疎外感を覚えさせないために彼らだけで行われる会話も全部携帯端末越しだ。
そのせいか耳が聞こえないことでついていけないと感じない。
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