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氷谷桃李2

 何をしているのかと聞けばりうはすぐに答えない。  自分がしていることが異常であるというのが分かっているんだろう。  それでも執拗に質問して口を割らせた結果、知ったのは思いがけない事実。    りうは味覚障害になっていたらしい。  それで色々なものを口に入れて味がするのか確かめたという。  だからといってノートの切れ端を口に入れてどうするんだと怒鳴りつけながら問題はそこではないと薄っすらと理解していた。  りうが味覚障害になった原因こそがこの場合の問題点だ。  これもまたりうは中々、言い出さなかった。  だが、逆に言わなかったことでりう自身が原因について心当たりがあると言っていることと同じだ。    いろんな角度から脅しともとれる言い方でりうに内心を吐き出すようにうながした。  両親に言うというのがりうにとっては一番いやなことだったらしい。  ちなみに両親に言うのは俺とりうが不仲であり、りうと顔を合わせたくないから家に帰らなくなったという話だ。  味覚障害だけなら出来れば心配をかけるから両親には知られたくない程度で知られるのがどうしてもイヤだと思ったりはしないらしい。  俺との不仲は冗談でも言わないで欲しいと頼まれた。    この時の俺の心境は最悪なことに歓喜一色だ。  りうは俺に嫌われたくはない、仲良くしたいと思っている。  俺のことをりうが好きだと思っているそれだけで身体の奥から熱が生じて胸に空いた穴が埋まるようだった。  弟が兄のことを嫌いなわけがないと俺が言えばりうはとても安心した。  泣きながら「ちゃんと家に帰ってきて」というりうは儚く美しかった。  少し痩せたりうが「夜遊びはダメだよ」と口にするのがとてもかわいく見えて欲情した。  たぶん、この時に無理やりでもりうと肉体関係を持っていたのなら俺の苦悩はたいしてなかった。  俺はやっと理解した恋心に感動してゆっくりと兄弟から関係を変えることを決めたのだ。  元々、イトコとはいえ血は繋がっていない。一緒の家に暮らしているだけの他人だ。    人から愛されるタイプの人間だと俺は自分を分かっていたので、いずれはりうを手に入れられると思った。  それが浅はかな子供の考えだと分かるのはすぐ後のこと。    家に帰ってくることを条件に俺はりうから全てを聞きだした。    そして分かったのは、りうがストーカー被害を受けていたという事実。  なぜ言わないのかと責めれば言えなかったと返された。  そもそも俺はあまり家にも帰らなかった。    りうは社交的ではないけれど人付き合いが下手というわけではない。  ただ俺の兄ということで俺の知り合いの柄の悪いやつらがりうの周りにいることがある。  りうが何かをされているわけでもなかったが周囲から浮く原因の一つにはなった。  そして、りうはそこら辺の女子なんて目じゃないほどに綺麗だったので近寄り難くなっていた。  クラスで勇気のある何人かはりうに話しかけて友人未満の位置についているようだが休日に遊びに行く相手もストーカーについて相談する相手もいない。    好き放題な俺と違ってりうは孤独を極めていた。  そこに追いやったのは間違いなく俺だ。  俺の言動などがりうに影響を与えている。  りうが自分が抱え込んでいることを吐き出せない環境にしたのは俺だ。  

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