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朝比奈あずみ2

 幼い日に学園にやってきて父親の言葉など気にしないで頑張っていこうと思っていた。  朝比奈の名前の重さも自分の容姿の異端さも考慮して過ごしてきたつもりだった。    本当のところ、俺は覚悟をしていなかった。  本当の意味では理解していなかった。  だからこそこんなにもつらくて見苦しくりうの前で泣いた。    求められる立ち振る舞い、欲しがられる言葉、それを吐き出しさえすれば俺の役目は終わり。  俺の本音とか、心とかそういったものに意味はない。どうでもいいのだ。  誰も俺のことを考える人間はいない。  そう思って苦しかったり切なかったりしていたのは最初だけ。  悲劇を気取ったところで世界は何も変わらない。  周囲の人間は俺からいろんなものを奪っていくばかり。  自由な時間も話し相手も人格も行動も制限されていく。    自分の気持ちを相手にぶつけて訴えてどうにかしようと思う気持ちはいつの間にかなくなっていた。  無意味だと悟ったからだ。彼らが求めているのは彼ら自身が作り出した理想形であり俺ではない。  親衛隊として徒党を組む集団が現れるより以前から俺の周りには選民意識の強い集団が執着心をむき出しにして取り囲んでいた。  それを振り払う努力は挫けて自分らしくあろうとする気力はうまく保てない。    自分のことを誰も理解してくれない。それが当たり前かもしれないがどうしても淋しかった。叫び出したい弱音が心のうちに溜まっていき俺の精神を醜くしていく。ドロドロに濁った汚物が俺を形作っている。世界に対する恨み言が蓄積されて絶望と失意と諦観に日々、沈み込む。    手を差し伸べてくれた先輩もいた。同じような立場の役員たちは少なからず鬱屈としたものを抱えていたので同病相憐れむように傍にいて不快ではなかった。だがそれでも俺は少し引いた態度を崩せないまま高等部まで来てしまった。    求めていたのは理解じゃない。  そのくせ心が必死に何かを訴えて身体が重くなっていく。  この世界で誰一人として俺の本当の言葉を聞いてはくれない。  悲劇を気取ることをやめたつもりで自分を憐れむ気持ちを消せずにいた。  周りがみんな楽しそうに笑っているのに俺は無表情のまま。  笑いたくないわけじゃない。俺にも感情はある。けれど、それは似合わないと言われたり、もっと直接的にやめるように告げられたこともある。俺、朝比奈あずみとはなんだろう。どこにいるんだろう。俺の人生は他人に決められた枠組みの中で生きるものなんだろうか。    孤立であることを強いられる。それ自体よりも周りが望んだ結果、孤立しているにもかかわらず俺が孤立を求めているように言われるのが耐えられない。俺の本音も何もかも周りが勝手に作っていく。苦しくて心はすり減り続けた。    周囲の人間の操り人形になっているのは俺が悪いのだろう。  きちんとした意思表示、周りをまとめるだけの理論武装、そういったものを俺は持たなかった。  議論することもなく悲劇に浸ったし放棄してきた。  その結果、周囲の空気に流されて自分じゃない自分を演じている。  これは俺の自己主張のなさが招いた喜劇であり、悲劇なんかじゃない。  嫌ならば嫌だと意思表示しなければならない。怠ったわけではないが上手くいかなかった。  誰も助けてくれることはなく一人では現状を打破できないのなら流されるしかない。    教師たちは生徒と生徒の間のことに絶対に口を出さない  それは生徒を恐れているのではなく学園の教育方針だ。  自立を最優先するため何でも自分たちで解決するようにさせている。  小さな問題でつまずくようでは今後の社会でやっていけない。そう思っているのだ。    手を貸して導く人間のいない場所で育ち続ける俺たちは歪んでいる。  上に立つ人間でいることを義務付けられることから驕り、選民意識は拍車がかかる。  一定レベルの人間は誰もが自分は選ばれた人間であるというプライドを持っている。  それ自体は悪いことじゃない。  ただ普通の人間はこの学園にはいない。普通の人間はこの学園にはいられない。    上に立つ人間、自分がその器にないと分かっているからこそ俺はきっと追い詰められていた。  この場所にいるのがつらいと悲劇を気取っていた。  勝手だと分かりながらも周囲からぶつけられる執着心に鳥肌を立てる。    親衛隊たちが吐き気がするほど気持ちが悪い。  崇拝は怖い。憧れ、妄信、それらは俺ではない俺を見ている。  本当の情けなさの詰まった俺のことを周りはみんな嫌う。あるいは認めもしない。  俺が毎日殺される。

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