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第13話

 両親に僕を愛してるのかと聞けば愛していると答えるだろう。  同じだけ両親は桃李くんのことも愛している。  僕だけを見て僕だけを愛して僕だけを大切にしてなんて言えない。  言わずにいるのが僕の醜さを隠す方法だった。    仮に榛名に僕の醜さを知られてそれを受け入れられたとしても僕は全く嬉しくない。  だから、逃げていた。  榛名に嫌われているかどうかなんかどうでもよかった。  僕は僕の醜さにおびえて逃げていた。  自分の中にある嫉妬心も不安も嫌いだった。  愛されていないかもしれないと疑ったり諦めたり割り切ったりするのなんかごめんだ。    部屋の中の家具に当たり散らしてぐちゃぐちゃにしたい。  榛名に怒鳴りつけたい。  でも、できない。  行動の結果、榛名に幻滅されるかもしれないと思っているからじゃない。  自分がヒステリックに叫ぶ姿を想像して鳥肌が立つのだ。    愛されたいと叫ぶのは嫌だ。  それは見苦しい行為だ。  桃李くんを妬んでいることも嫌っていることも誰にも知られたくない。    僕のことは誰も知らなくたっていい。  僕の気持ちなんか理解しないで欲しい。    僕が桃李くんのストーカーに恋をしていたことなんて知られたくないのと同じで今の榛名に対する気持ちも全部捨て去っていたい。    味がしないのも音が聞こえないのも嘘。  でも、本当。思い込んでいると全部があやふやになって現実であるような気がする。  薄いベール越しに世界を感じると何が嘘で何が本当か分からなくなる。  自分の弱さで自分を追いつめているということだけが確か。  周りを心配させている自分に罪悪感を抱きながら満足する醜さ。  自分勝手に世界を拒絶しながら苦しんでいるふり。    僕だけを見て僕だけを思って僕だけを愛してくれる相手がいるならそれがストーカーであっても良かった。  もちろん、最初は僕のストーカーだと思った彼の目当てが桃李くんなのはすぐに気づけた。  桃李くんはいろんな人に愛される。  僕は愛されない。必要とされない。  だから、粘着質な愛は全部桃李くんのもの。  僕が欲しがったところで与えられない。    味覚も聴覚もきっと半々の性能なんだろう。    食事だって和やかな空間ならおいしくなるけれどギスギスしていればまずくなる。  僕は桃李くんの元気な姿に嬉しそうにする両親に吐き気がした。  誕生日の席で主役である僕は二の次で話の中心は桃李くん。  苦痛なだけの時間だった。  そう思うこともまたストレスだ。  僕は僕の醜さを認めたくないから言い訳を作らないとならない。  桃李くんに夜中に吐いているのを見られたのは失敗だった。    人の気持ちに敏感な桃李くんはきっと僕の醜さに気づいている。  醜さを引き出して僕を支配したがっている。    彼はきっと僕に言うのだろう。   『どんなりうも俺なら受け入れられる』    なんて許し難いことを笑って言うんだろう。  僕は僕の醜さが嫌いだ。許しなんか求めてないし受け入れられたくもない。  綺麗事は桃李くんの得意技。僕はそんなことできないから微笑んで終わり。    榛名が僕より桃李くん、いいやスモモくんを選んでもいい。  もう十分すぎるぐらいにそういう前提だと思って考え続けて傷ついたから、もう大丈夫。   「……りう、泣いているのか?」    それは榛名かあずみくんか、どちらの台詞だろう。    苦しい痛いつらい聞きたくない。  大丈夫、大丈夫。心の中で百回以上繰り返す。  毎日不安で重苦しくて怖くて怯えて仕方がなかった。  心でどんなに叫んでも誰もやっては来てくれない。  そんな当たり前のこと分かった上で僕は自分のプライドをとった。  桃李くんを妬んでいる醜い自分から目をそらすために榛名への愛を壊す作業を僕は日々続けていた。    いつだって僕は愛されて必要とされて物事の中心になる桃李くんが羨ましかった。    物語があるのなら主役は桃李くんで僕は脇役だろう。  超えるべき障害、自分が成長するために飛び越えるハードル、それを理解しながら僕は動くことが出来ない。  主人公の器じゃない。  だから、桃李くんに全部を持っていかれる。  僕には何も残らない。    でも、その事実は痛すぎる。    痛みだけでは前に進むことが出来ない。  そのため僕は誤魔化して生きることにしたのだ。    自分に魔法をかけるのだ。  嘘が本当になるように思い込む。  暗示なのか心が病んだ結果なのかは自分でもわからない。  ただ楽になるための手段としてとても有効だった。  僕を心の底から愛してくれる人の声だけは聞こえる。  魔法は心が弱れば効力が薄れるだろうけれどしばらくは僕を守ってくれる。  信じていても助けも王子様も来ないけれど痛みがないと言い続ければ僕は何とか歩いていける。    嘘を信じ続けて本当にするしか僕は自分を守れない。

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