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第15話

 僕は氷谷桃李が嫌いで氷谷桃李の味方もまた嫌悪している。  榛名重蔵を僕は利用していた。  中学の頃に受けた傷。いいやそれよりも前からずっと氷谷桃李から受けていた打撃、それを治してくれる相手を求めていた。甘く優しくお姫様ごっこ。榛名への気持ちの表層は甘くて淡い恋慕。でも、一皮むけば僕の醜い部分が出ている。  僕は榛名重蔵だから好きじゃない。僕を好きな相手が好きだった。  醜く利己的。自分のことしか考えない気分の悪い自己愛。     「泣かないでくれ」      止まらない涙。  無痛症ごっこの終わり。    聞こえないふりも、聞こえているふりも、心が病んでいるふりも、自分に吐き続けた嘘も、全部終わり。  僕の醜さはきっと都市伝説である口裂け女みたいなもの。  綺麗かと尋ねて否定すればブチ切れて、頷けば素顔を晒して「これでもか」と醜さを見せつける。  本当は分かっている。自分の醜さは分かってる。  愛されたがっているのに言えない。欲しがれない。怖い。  口裂け女素顔を見てそれでも綺麗だと答える人間がいたらきっと都市伝説は生まれない。  そんな奇跡は起こることなく醜い顔に誰もが叫んで逃げるのだ。    僕のことを綺麗で好きだという全ての人間はきっと作り上げた僕の表層を見ている。  そうさせているのに不満を持つのは桃李くんが人格丸ごと周囲に受け入れられているからだ。  僕は彼と比較して自分が劣っていることを理解したくない。    だから、氷谷桃李の周りが全部嫌なのだ。   「きらいになりたくなかった……」      口から出た言葉はどこまでも薄汚くて自己愛に満ちていた。  榛名を好きなままで綺麗に失恋したかった。  でも、違う。  僕は憎んだ。間違いなく恨んだ。  桃李くんを優先し続ける榛名に殺意すら向けた。  好きだからこそ嫌でつらくて苛立った。  榛名を罵る言葉しか吐きだせそうになかったからこそ僕は強制的に口を閉じることを選んだ。  耳が聞こえないのなら音に無関心でいていい。自分が発する音にもまた耳を塞いでいられる。    ずっと叫びたかったのだ。  愛を欲しがり、裏切りをなじり、淋しいと甘えたい。  絶対に出来ないけれど願望は心の中で暴れ続けた。

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