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第17話
その人を目の前にすると自分はまともじゃなかったと感じる。
ささくれ立っていた気持ちがリセットされ僕が戻ってくる気がした。
僕が定義する僕。
装っているのかもしれない優しい氷谷りうの姿。
僕が愛せる僕の姿。
誰かを妬ましく思ったり、自分の現状に不満を持ち続ける自分が僕は嫌いだ。
僕が想像する僕の像と合わない。
プライドが高いんだろう。
僕は根っからのお姫様的な傲慢さを持っている。
けれど、それを隠している。誰にも知られたくないと思っている。
ただ目の前の先輩にはバレている。
先輩は僕を侮蔑することもなく自分が自分を好きなのは当たり前のことだと言ってくれる。
それが救いというよりは心を落ち着かせる優しさだと思える。
先輩の前にいるときはいつでも自分を責めなくていいんだという安堵がある。
榛名重蔵や両親に対して思う独占欲や桃李くんに対する八つ当たりと正当性の半分半分の憎悪は僕の精神をすり減らす。
桃李くんに、スモモくんに、優しくしたくないと僕の心はずっと訴えるけれど優しくしないわけにいかない。
彼が僕にしていることを嫌がらせだと感じるのは僕が優しくないから。
彼の存在が僕にとって悪いものになっているのは環境のせいで彼自身のせいじゃない。
そう思い込めたら僕はもっと広い心を持てていただろう。
僕は自分がいたいのも苦しいのも全部、彼のせいだと思ってる。
だからどんな手段を使っても彼と離れて生きていきたい。
忘れてしまいたい。
痛みと共に歩み続けるほど僕は忍耐強くない。
聞きたくないものは聞かない。
知りたくないものは知らない。
見たくないものは見ない。
そんなにうまく行くはずがないと分かっていても、僕は僕の感覚を切り捨てて生きていくんだろう。
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