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エンド:氷谷りうの幸せの在り処1

 自分という存在がなんであるのか考えてもなかなか答えは出なかった。  わかったのは嫌っても否定しても自分を切り離すことが出来ないということ。  所詮、自分は自分なのだ。開き直っていくしかない。     りう:僕は僕のことをミュンヒハウゼン症候群なのかと疑ったこともある りう:榛名の興味を引きたいからおかしくなったのかなって    自分が吐きだしたはずの文字列を嫌悪する。  ミュンヒハウゼン症候群――詐病という言い方の方がわかりやすいかもしれない。  厳密には違うけれど嘘の病。  病気であると思い込んでしまっている病。  わざとじゃない。本人は本当に自分が病気になっていると感じている。  病気になることによって周りから関心や同情を得ようとする。    僕も心のどこかでそうなんじゃないかと思っていた。    両親に構って欲しくて、気づいて欲しくて味覚が消えた。  榛名に訴えるために聴覚を消した。  でも、違う。    僕は究極的に両親も榛名もどうでも良かった。  僕は僕の楽な方をとった。    味がしない方が楽だった。  音がしない方が楽だった。    心が解放されるような気がした。  いつも重苦しくあった重圧が消えた。  感じないものはないのと同じ。  味がしなければ惨めな気持ちにもならない。  耳を塞いでいれば僕を苛む言葉は聞こえない。     りう:ごめんね、榛名 りう:僕は僕のことしか考えられない 榛名:そのつもりがあろうとなかろうと 榛名:おれのせいだよ、それは    榛名は優しいから責任を感じてしまうだろう。  けれど、きちんと決着をつける必要があると思ったから僕の状況を教えた。  別に榛名が僕を追いつめたかったのだとは思わない。     りう:僕が榛名を思い続けたら、きっとそれはそれで幸せだっただろうね 榛名:そう りう:きっと、榛名と誰かがいるところを見たくなくて目が見えなくなる りう:その次は榛名から誰かの残り香を感じたくなくて嗅覚を捨てる りう:誰かに触った手で触れられていると思いたくなくて皮膚感覚がなくなる りう:何も感じなくなったその中で僕は榛名に愛されていることを疑いながらも信じ続けるんだろう      それはそれでとても幸せだと思う。  何も感じない中で自分を見つめる。  榛名を愛している自分だけを大切にして他の全部を切り捨てて拒絶する。  献身的とか健気さなんかない。僕は僕のことしか考えちゃいない。  僕の状況を見て榛名がどう思うかなんて気にしていない。     りう:僕の持ち合わせている愛情は迷惑だよね 榛名:そんなことないよ 榛名:りうは不安が目に見える形で出るってだけで りう:異常だよ りう:僕は異常なんだ りう:だから、榛名のそばを選べない りう:不釣り合いだってわかってるから僕は僕の異常性を加速させる      痛みを感じないために五感を捨てる。それはきっと僕の自分勝手さの表れ。逃避の形。  逃げている。逃げないと苦しいから、痛いから。弱い僕は逃げ続ける。  榛名に僕のことを語るのもある種の逃げ。    

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