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エンド裏:朝比奈あずみの幸せのカタチ1
氷谷りうの身に起きたことは災難だ。
一言で表すのなら人災だ。
俺はこれが仕方がないことだなんて思わないし、認めない。
りうの風紀委員長に対する懺悔のような文面を委員長の肩越しに見つめながら俺は「ちゃんと返事をしろよ」と告げる。折角、りうが「また話せるといい」なんて前向きなことを言ってくれたのに風紀委員長は血濡れのスモモを見ているだけ。
こういうところがダメなんだろう。
俺は目の前で自分の両親が殺されてもりうとの会話を優先させただろう。
氷谷りう以上に優先するものなんかこの世にない。
風紀委員長は自分がりうと付き合えた幸運を理解していない。
だから、粗末な扱いが出来るんだ。酷い侮辱だ。
りうは綺麗だから自分を責めているけれど、りうに負の感情を起こさせる周りが悪いだろう。
人を恨みたくない、誰にも怒りを向けたくない。
りうのその精神はとても綺麗。
常に心を乱すことなくフラットでいたい。
そして、心を愛で満たされていたい。
それのどこがおかしいんだろう。
氷谷りうを異常だと感じるなら俺の愛は異様で不気味かもしれない。
風紀委員長の片手落ちともいえる対応を責めないりうは優しく綺麗で薄情だ。
とてもかわいいと思う。
風紀委員長に自分の心の内を語ったのは風紀委員長に何も求めていないからだ。
本当に欲しい時にはその相手には何も求めない。
いいや、心の中では求めるんだろう。欲しがっている。
でも、それは綺麗じゃないから押し殺す。
どうでもいい他人になら何だって言えるけれど大切な相手にはわがままを言えない。
浅ましいと呆れられるのがりうは死ぬよりつらいんだろう。
幻滅されるのが嫌なのだ。
俺もりうに見下げられたら死ねる。
好きだからこそ怖くて怖くてたまらない。
でも、りうは俺を信じてくれた。信じ続けてくれる。
それが風紀委員長との会話文でわかったので心は晴れやかだ。
「風紀も大変だな。放課後も仕事か」
りうは授業が終わったらすぐに部屋に戻って夕食の支度をする。
今日はりうの友人が手伝っている。
「……生徒会だって仕事がある、だろ……それ、より」
血だらけのスモモに目を向けて風紀委員長が戸惑う。
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