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エンド裏:朝比奈あずみの幸せのカタチ3

「副会長たちはスモモを庇うだろうが……俺はそうしないように告げるつもりだ」 「何を……。役員たちがお前に逆らうはずがない――そんなことをしたら」 「スモモが大変? かもしれないな。だから、そう思うなら守ってやればいい。手を差し伸べて嘘から出た誠でも演じればいいじゃないか。そうしたらスモモへの風当たりも多少マシになる」    期間限定の嘘の恋人じゃない。  本当に二人が付き合ってしまえば俺にとって邪魔者がいなくなって心は平穏だ。  りうもきっと風紀委員長に対する引け目が消える。   「かわいそうな人間を風紀委員長は放っておけないだろう?」    氷谷りうは高潔だった。  誇り高く美しい。  だから、哀れみからくる愛を欲しがらない。  同情なんかいらないんだ。  自分を見て評価してもらいたがっている。    その気持ちは俺もよく分かる。  レッテルを張られたくない。  自分は自分で、他の誰も代わりにならないと言って欲しい。  誰にでも渡せる愛なんかいらない。  愛はたった一人にだけ捧げる崇高なものじゃないとダメなんだ。    俺はりうになんだって与えられる。  りうにはその価値があるから当然だ。  俺の声が届かなかったとしても喉がかれて血を吐いても愛を叫び続けられる。  徒労だなんて思わない。  りうを思う俺はとても充実している。    だから、いらないものは切り離していかないといけない。  邪魔なものをゴミ箱に入れて掃除をするのは当たり前だ。   「風紀委員長は善人で性格はいいし常識人だろうが、その正常さに氷谷りうが毒に触れたように弱っていった事実を忘れるな。人は善意にだって殺される」    思いやりも見方を変えれば凶器になる。  誰かに優しい風紀委員長は恋人には優しくない。  身内になった途端に扱いが雑になるなんて酷い話だ。  お人好しで優しいから自分よりも周りを優先する。それは身内である恋人や家族を蔑ろにすることに繋がる。   「……スモモをちゃんと見てろよ」    彼らがどうなるのかなんて知ったことではない。  りうに迷惑をかけないならどうだっていい。  けれど、スモモはりうに手を伸ばそうとするだろう。  風紀委員長がそばにいれば抑止力になる。何かを考えてもそう簡単にいかないだろう。    世話焼きみたいな厄介な人種は多い。  りうとスモモの仲を取り持とうとする人間がいるかもしれないがそれは先に潰しておく。  幸い、りうを評価している先輩たちはりうの心の平穏を望んでくれているので俺に対して好意的だ。  学園を掌握することはたやすい。        りうの部屋を訪れると不思議なことに誰もいなかった。  料理はテーブルにセットされているが随分と少ない。  二人分ぐらいだ。    りうを前にして事情の説明より何よりも「ただいま、愛してる」と口からするっと出た。  愛の安売りをしたいわけじゃないのにりうを見ると好きだと言いたくてたまらない。  数時間も離れていないけれど、りうはまた綺麗になった気がする。  俺を見てすこし頬を染めて見つめてくる。魂が震える。   「あずみくん、あの……僕と付き合ってください」    音をたしかめるように声を出すりう。  自分の声もときどき聞こえないらしい。  いまは聞こえているのかホッとした表情で俺を見上げる。  かわいい。生きていて良かった。  返事をしようとして口を開いたら嗚咽になった。    泣きながら「ありがとう」とか「好きだ」とか口にする俺はだいぶ間抜けだ。  情けないと卑下する気持ちはりうが綺麗な微笑みを浮かべることで消えてしまう。   「僕を好きでいてくれてありがとう。……これからも、よろしくお願いします」    頭を下げるりうに愛しさが止まらない。  氷谷りうと出会えてよかった。愛してよかった。愛されてよかった。    俺はりうの美しさを守っていきたいと思う。  愛し続けるのは簡単だ。それを伝え続けるのだって簡単だ。  りうがそれを信じ続けるのは難しいかもしれないけれど、愛は常に俺と共にある。  それだけは断言できる。  氷谷りうが俺の幸せの形だからだ。りうを欠いた俺の人生に幸福はない。

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