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エンド後:氷谷桃李の愛の在り方1

 痛みに目が覚めて副会長をしている友達の心配そうな顔に苦笑い。  今に始まったことじゃないが、転入してからずっと心配かけ通しだ。    俺に対して邪魔だなんだと言いながら複数で殴りつけてきた相手が誰なのか分からない。  この学園の生徒の顔は覚えにくい。  表情や言い分は親衛隊のような感じだったが肉体派な人種だったので本当に親衛隊関係かも判断が付かない。  ケンカ慣れしている自覚があったから人数を揃えられても平気だと思ってた。  進学校の生徒ぐらい中学で相手にしていた奴らに比べたらなんてことない、そのはずだったのに結果はボロボロ。    特別相手が強かったり卑怯な手段を使われたというわけじゃない。  ここで俺が傷ついたらりうが罪悪感で苦しむんじゃないのかと思った。  頭の隅によぎった考えにすがって俺は迫りくる拳を回避しようという気がなくなってしまった。  殴られて痛くてもりうが俺の手当てをして表情を曇らせながらも離れていかないなら大成功だ。  そう思ったのに俺の手当てをしているのは氷谷りうではなく副会長。  これが現実とでもいうような薄情さに胸の中に氷の杭を打ち込まれるような気分になる。   「……やめておけ」    副会長が何かを言いたのは分かっていた。けれど、口にする言葉を考えに考えた挙句に出てきたのがそれというお粗末さ。笑いながら「なにが」と聞けば「もうあきらめろ」と告げられた。  俺の気持ちもりうのことも何も分かってない奴に横から口出しされたくない。   「朝比奈会長は無理だ……朝比奈には絶対に勝てない」    らしくない言い方をする副会長。彼はいつだって自信を持ちながら孤独を嘆いて誰かと繋がりたがっていた。夜の街でチームを作って人との絆を大切にしていた。この学園で一匹狼なんて呼ばれている不良も副会長のチームのメンバーだ。勝手に一匹狼で誰ともつるまないと思われていてかわいそう。同じクラスだったから一緒に行動していたらいらない注目を浴びたが生徒会役員たちと普通に話しかけているので今更な話だ。   「朝比奈って家はそんなに?」 「家の格もそうだが……朝比奈あずみ会長の信奉者は狂人揃いだ」 「親衛隊は」 「ちげーよ。親衛隊じゃねえんだよ。狂信者だ。親衛隊なんて偶像崇拝のおままごとだ。ごっこ遊びで盛り上がってるだけだ。朝比奈会長の恐ろしいのは……会長のためなら人殺しになっても構わねえって思ってるやつがいることだ。会長のための駒。会長からの感謝も認知も求めてない自動的な会長のためだけの駒」  俺の言葉を遮って副会長はまくしたてる。  鬼気迫る雰囲気に呆然とするしかない。 「意味わかんねえ」 「氷谷が襲われた件……あれは会長の親衛隊って話だが、裏で糸を引いてたのは会長の信者だろう」  同じじゃないのかという言葉は飲み込む。  さっき、親衛隊よりも凶悪な集団だと聞いたばかりだ。  それでも頭がついていかない。 「……りうがあずみになびかなかった腹いせ?」    自分が心を捧げている相手が片思いをしているなんて状況を許すわけがないのかもしれない。あずみに好かれているのにあずみに思いを返さないのは生意気だと思われるのかもしれない。勝手だが狂った人間の考えなんて常識で測れないだろう。    りうがあずみに惚れられたことで襲われたのは今更だ。犯人が親衛隊だと聞いて分かっていたことなのに副会長が蒸し返す意味はなんだ。   「氷谷を朝比奈会長が助けるシチュエーションを作りたかったんだろう。まあ、会長もそれを分かってるから苦しかっただろうし、氷谷だってこの学園に一年いてそれなりに分かってたはずだ。ここの異常性は」 「は? なにそれ」     あずみがりうを助けるためにりうは襲われた。  りうが襲われたからあずみが助けたわけじゃない。  そもそも、あずみと一緒に行動している最中にりうがさらわれるというのがおかしい。  あずみの周りには親衛隊がいて一般の生徒だってあずみに注目して目立つに決まっている。  りうに何かを仕掛けるならあずみが近くに居ない方が成功率が上がる。それなのにあずみがトイレに立ち寄ったときにりうは居なくなった。それはとても不自然なこと。りうと一緒に居た放送部員が怪我をしていて何があったのかはあずみにすぐに伝わる。    あの状況であずみ以外が一番最初にりうに辿り着くわけがない。  言われてみれば当然だ。  穴だらけな計画がなぜ実行されたのか。  その結果がどうなったのか。

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