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第8話

「はぁ、隊長の中、すごく、気持ち良いです、ハイ……!」 「あっ、んん……っ、あぁっ!」  奥を一物で突かれる度に、顔を赤めて喘ぎ声を上げるカンナ。その寂しげな顔を見据えて、レンも腰を振るだけでなく、カンナその物を強く握りしめ、そして上下運動を忘れなかった。 「隊長、自分より先にイったらダメですよ。これはオシオキなんですから」 「む、無理……っ、もう、いきそ、っ」 「じゃあ自分にオネダリしてください。『セルンの事を忘れるから、イカせてくれ』って」 「え、っ……あぁっ!」  一瞬だけ目を見開いたカンナが、どこか面白くなくて。 レンはその時だけ強く、腰を打ち付けた。 パン――ッ、と。肉と肉の交わり合う音が執務室に強く響いたその時。レンは動きを止めた。 「オシオキ、ですよ」 「無理……無理だよ、忘れる、なんて……」 「じゃあ、このまま抜いて、貞操帯でもつけましょうか。それともこのまま部屋のドアを開けて、隊長が犯されてる所を、皆に見てもらいましょうか?」 「やだ……ぜったい、やだ……っ」 「じゃあ約束してください。セルンの事を忘れるって」  ピストン運動を再開する。強く打ち付けられるレンの腰とカンナの尻部の激しい交わりは、カンナの物を更に膨張させた。暴発は近い。 「さあ……さあ!」  声を高らかに、レンが強く腰を振る度に。 カンナは物欲しげな表情を浮かべ――最後には、言葉を紡ぐ。 「わ……わすれる、ように……努力、する、からっ、セルンの、こと、っ、忘れる、からぁ……!」  イカせて欲しいと。彼はレンの体に、自身の足を絡ませた。 ギュッとレンを抱きしめて、放ったカンナの言葉が嬉しくて嬉しくて。 レンはニッコリと笑みを浮かべた。 「――自分もいきます。一緒にいきましょう、ハイ」  抱きしめ返して、腰を振るレン。だが先ほどまでの、ただ肉欲に任せた動きでは無い。 カンナの気持ちの良い場所、自分が良い場所を見極めながら、少しずつ快感へと到達する場所を、攻めていく。 カンナも悦ぶように歓喜の喘ぎを浮かべる。彼を手に入れたと言う強い支配欲が引き金となり、レンの下腹部に衝動が走った。 「隊長……好きです。自分を、自分だけを、見てください……!」 「あっ、おれも、好きぃ……レン、さんが……好き、だからぁ!」 「い、くぅ……!」 「あ、あああ、……っ!」  ドクンドクンと。鼓動の早まる音と同じく。 カンナとレンは、その欲望を放出した。  まるでその場で、全てを排出したように、二人は自身の体をぐったりとソファに預けるしか、他にする事は出来なかった。 ドロドロとした熱を帯びた粘液は、カンナの中へ、そしてカンナの腹へと排出され、カンナはしばし、放心状態のままでレンと繋がっていた。 「あ、あの……隊長……その、ごめんなさい、です。ハイ」 「……許さない」 「ご、ごめんなさ――」  一度欲望を排出して、冷静になったのか。レンはただカンナに謝り倒していた。そんな彼の様子を見据えた上で、カンナは顔を赤めながら、ただ彼に言う。 「許さないから――これからずっと、俺の部下で、居る事」  複雑そうな表情を浮かべたカンナの言葉に。 レンは、自分が欲しかった物を手に入れた、その歓喜を一身に受け。 カンナの唇と自身の唇を、今一度重ね合わせた。 ** セバルタ軍の第四十一作戦部隊から、第六十作戦部隊までが行動を共にする汎用高速戦艦【トール】は、先日の支援艦【ブローカー】の撃沈により、当初の作戦である『敵戦力のかく乱及び新兵の実地訓練』が難しくなってしまった事もあり、一度本国への帰国を余儀なくされている。 第四十五作戦部隊と、第四十八作戦部隊の共同で行われる偵察任務の最中――その事件は行った。 四機編成を組んでいる第四十五作戦部隊の面々は、突如出現したプロスパー『ウォレン』――その、たった一機の猛攻を受け切る事が出来ず、全機撃墜が確認された。 またその後、二機編成を組まれている第四十八作戦部隊の一機は帰投したものの、隊長機は同じウォレンに撃墜されていた。 「エース……いや、そんな生半可なもんじゃない。死神だよ、あんなの」  第四十八作戦部隊で唯一生き残った隊員、シジマがそう言いながら俯き、言葉を残していたことが非常に印象強かった。 カンナとレンは、その報告書を読みながら、共に頭を抱えている。 「……あのさ、レンさん」 「認めたくはありませんが……アイツじゃないですか? ハイ」  そのウォレンの戦闘スタイルは少しだけ独特だった。 最初は敵を試す様にかく乱を行い、しばしその力量を確かめるものの、その実力が高くないと知れば、そのまま敵機を一瞬の内に屠っていく。 まるで――品定めを行っているように。 「セルンだ」 「全く……執念深い男は嫌われるものだと言うのに、ハイ」  余裕の表情を浮かべて、ハァと溜息をついたレン。既にカンナは自分の物であると言う優越感に浸っているのだろう。 ――だが、カンナは、彼の予想を裏切る発言をした。 「一度俺は、セルンと話をしないといけない」 「え」 「俺はもう、セルンの物にならない。セルンの近くから、居なくなるって」 「どういう事です? ハイ」  言葉の内容こそ、許容すべき内容ではある。あるが――その言葉の意味を、レンは上手く理解する事が出来なかった。 「レンさんにも、言っておかなきゃならない事だけど……俺は、この艦から離れなきゃいけない」 「つまり異動、ですか? 確かにそうなれば、セルンの元を離れるは必然、ですが……」  嫌な予感がする。レンは、ごくっと息を呑んだ後に――その内容を尋ねる。 「教えてください。その意味を。ハイ」  レンの言葉に、覚悟を決めたように頷き、表情を引き締めたカンナは――。 「俺は、最前線へ出向く事になる。きっと生きては、帰れないだろう」  レンには、言葉を発する事も出来なかった。 ただ唖然とした表情だけを浮かべて、ただカンナの言葉を待っていた。 「最前線――まぁ、ミューレのフィルターを占拠する為の部隊に配属される事となる。勉強してると思うけど、あそこはかなりの激戦区だから、生きて帰れたら奇跡に近い」 「ちょ、ちょっと待ってください! 異動となれば部隊ごと動くのは必然です。となれば、自分も一緒に」 「レンさんは行かない。レンさんは俺の異動の後、第五十三作戦部隊に仮配属されるように手配した」 「なんで、何でそんな事を、今まで黙っていたんですか!?  隊長は自分に、ずっと隊長の部下でいる事を誓わせたじゃないですか!  自分は、自分は隊長を愛している。隊長の為なら、この命を捨てても良い。  だから、だから自分も、一緒に――」 「ずっと俺の事を、上官だと思っていてくれ。それだけでいい。それだけでいいんだ。俺が、戦った証し――それを、レンさんにずっと、受け継いで行ってほしいんだ」  俺は、レンさんの上官だから。 そう言って、ハハッと笑ったカンナの表情を、レンは見据える事など出来なかった。 カンナは、自身の犠牲だけを望んだ。 レンを巻き込む事を。最前線にいく事を拒否し。自分だけを、その地へ送る事を望んだ。 そう、要望を出したのだと言う。 「……隊長は、勝手です……ハイ」 「ごめん」 「謝らないでください……謝らないで……ハイ」  ただその場で、レンは泣き続けた。 レンは、自分が仕出かしてしまった事を。 彼を自分の物にする為に、彼を襲い、傷付けてしまった、汚してしまった事を――何より悔やんでいた。 (……殺す) 泣き腫れた目元を持ち上げて、前を見て、レンは――ただその怒りを、まだ見ぬ者に向けるしかなかった。 (セルン――お前は、自分が……殺す。絶対に……!)  ** ミューレ軍第三作戦部の、プロスパー格納庫に、今セルンは足を付けた。 ふぅと溜息をつきながら歩き出す。眼前には自分より幼い子供たちもいる。その者達の名前すら知らない。名前を自分で把握している者も少なくないだろう。 セルンはその中でも最年長のパイロットだ。生き長らえ、そしてその技能を常に戦場で身に着けて来た彼は、周りの者からも憧れの目で見られることも少なくは無い。 そんな彼の元へ、耳に付けた無線で指示が飛んできた。 『セルン、執務室に来てくれ』  マークの声だ。短く「かしこまりました」と返事を返したセルンは、格納庫を出て、作戦執務室に顔を出した。 「来たな。収穫は」 「依然、カンナの駆る機体には出会えず、雑魚を掃討しています」 「そうか。だが時間が無い。敵艦も本国への帰投をし出したようだし、そろそろ君のワガママに付き合う時間が無くなってきた」 「それは」 「だがしかし、安心してほしい。流石に艦艇へ攻撃を仕掛ければ、君が狙うその『カンナ』と言う少年も顔を出すだろう。君には、艦艇攻撃隊に加わり、見事敵艦を撃墜してほしい」  その少年は好きにすればいいさ、と言ったマークの言葉に頷き、ペコリとお辞儀をしたセルン。 セルンも気付いてる。マークはセルンの想いを利用し、上手く戦わせているだけだ。 だがそれでもいい。利用されて望んだカンナが手に入るのならば。 カンナと共に、生きる事が出来るのならば。  作戦執務室を出て、自室へと戻るまでの道――セルンは小さく笑みをこぼしながら、呟いた。 「カンナ――貴方はずっと、ボクと共に」

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