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第1話-3

毎度の憎まれ口。 「ばーか。誰がお前なんかとデートするかっての」 そう言ったんだ。 そしたらあいつは「ふーん?」って。 ただでさえ包丁よりも危険な顔面で意地悪く微笑んで。 長く骨ばった指を俺の顎に添えて動かないよう固定した。 所謂、顎クイ。注釈バックハグなう。 妖艶な光を漂わせる瞳に囚われて息を呑む。 遊矢の黒目に俺が見えた。 「俺とお前の、仲だろ?」 遠く、女子の悲鳴がこだまする。 (遊矢と、俺の…………、仲) 言葉の意味を呑み込んで、ぼぼぼぼっと顔に熱が集まって赤くなっているのを感じる。 コイツが言いたいことは分かってる。 ほら、あれ。仲良しな幼なじみ。 大丈夫、分かってるって。 だってほら、俺たちの仲、なんだもんな? ………いやいやいや恥ずかしい恥ずい恥ずい恥ずいなんだこれ新手の羞恥プレイかッ!!! なんだよ俺たちの仲ってッ!!!? そんな雰囲気醸し出して匂わせる程の「何か」は俺たちの間にねぇだろッ?!! 秘技、セルフノリツッコミ(心の音声でのみお送りします)だ。 こいつと過ごす中で身につけた平常心を保つための技である。 だがまぁしかし、鼻血を出さなかっただけ上出来だろう。 こいつの顔が目と鼻の先まで迫ったら、免疫ないやつとか輸血必須なのによ。 RPGのラスボスも顔面蒼白になるほどチートなご尊顔。 初対面で見つめあって微笑まれたらそこに血の海が出来るほど、歩く兵器な顔面を持ち合わせているんだ。 それに耐えてみせるなんて、さすが俺。本日のMVPは確実だろ。 でもどっくんどっくん、脳みそまで心臓になったんじゃないかってぐらい脈打って耳にまで自分の鼓動が響く。 ────それは紛れもなく、恋慕故のもので。 そんなこと知ってか知らずか、次は無邪気な笑顔で頬をつついて撫でて。 しかも見つめあったまんま。 逸らして欲しい。 バレて欲しくないから。 逸らさないで欲しい。 もっとずっとみてたいから。 繰り広げられる心のうちの葛藤。 「駅んとこに新しくできたゲーセン寄りたいんだよなー」 行こう、とは言わない。 行くだろ?って確信を帯びた眼差しを注がれる。 普段はすましているクセに、俺の前でだけ無邪気に勝気に年相応になる遊矢。 それに気づいてから、俺はいつも少しづつ自惚れていってる。 ………なんでこいつは、こーやって。 勘違いするだろーが。 仲良し幼なじみのこの立ち位置から動きたくなくて、死にものぐるいで堪(こら)えてんのに。 溢れそうなのを頑張って頑張ってせき止めてんのに。 やめてくれよ。 苦しいのに、つらいのに、嬉しいんだ。 ブレーキが壊れそう。 だってお前のこと、 す………、 そこで一旦思考を止めて、 「お前、ほっぺ弄りすぎ。暑苦しいから離せよ」 と距離を取った。 俺は、知ってんだよ。 期待するだけ無駄だってことは。 結局その後「んじゃ、ゲーセン行こーぜ」となぜだか気分のいい遊矢が先に昇降口を目指した。 俺もあとを追い、並んで2人で校門から出ようとする。 もちろん、さっきみたいにくっついてくることも無く。 別に………、別に悲しくなんかねぇ。 向こうが俺を意識する可能性より、天地がひっくり返って太陽が大爆発する可能性の方が高いなんて百も承知。 俺さえ我慢すりゃ万事解決。 そう、俺らは普通の幼なじみ。 ひとつ言うとするならば、俺が少し強い想いを抱いてるって、事くらいで。 だから他愛もない世間話とか、クラスでのこととか話してた。 そしたら門の影から出てきた他校の知らない女子が俺らに向かってきたんだ。 茶髪で制服着崩した美人な子。 派手なネイルに大きなピアスで髪は巻いててスカートからは生の太ももがetc ……とにかく、ナイスバディかつ遊矢にお似合いの女子だった。 遊矢の彼女が途切れることは無い。 歴代遊矢側近美女はみんな甘い声と柔らかな髪を持っていた。 親しそうに遊矢に話しかける。 横にいる俺なんか見向きもせずに。 今カノ、なのか?って勝手に思った。 前の子は同じ学校の先輩だったから、もう新しいのいんのかって衝撃を食らう。 まぁ、テンションが下がったのはそれだけでなく。 遊矢に女がいるとき、俺らは一緒に帰らない。 いつからか気を使った俺と、それに対して何も言わなかった遊矢との、暗黙の了解だ。 遊矢はそこまで乗り気じゃないようにみえたけど、今カノ?ちゃんは全然引く気がなく。 「ねえ、ゆうやぁ…」 誘うように遊矢の耳元で囁く今カノ(仮)ちゃん。 首に腕を絡めて、甘味のような誘惑をいやらしく。 こんなん、見てられっかよ。 健全な男子高校生即落ち案件だわ。 どうせ駅の近くのラブホ行くんだろ。 いーよいーよ、どーぞ。好きなだけ2人で乳くりあってくれ。 邪魔者は空気をきちんと読みます。 「俺、先帰ってるわー」 あくまで平静を装いながら。 遊矢の静止はちゃんと振り切って。 走り出したいのをぐっと奥まで押し込めて。 振り返らずに駅へ向かった。 胸の奥がじんじんと苦しかった。

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