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第2話-3

2人で並んで昇降口から出ると、なんだか前が騒がしいことに気づく。 「なんだろーな?」 翔太郎が首を傾げた。 「さぁ…」 特に興味も無い。 だが次の瞬間、翔太郎が呟いた。 「あれ……………高橋じゃね?」 心臓がドクンと大きく拍動する。 高橋とは、遊矢の苗字だ。 高橋は学校に何人かいるけど、翔太郎が高橋って呼ぶのは遊矢だけ。 階の違う遊矢と会う機会はあまりないから、女の子と登校していた日以来姿を見かけてすらいなかった。 でも、合わせる顔はない。 逃げようかと思案していると翔太郎が続ける。 「やっぱそーだ。隣にいるのはー、あぁ、うちの部活のマネの子かな」 翔太郎のその言葉と同時に、人混みの間から一瞬だけ遊矢を捉えた。 女の子は俺に背を向けているけど遊矢はよく見える。 優しく楽しそうに、微笑んでいた。 それは少し前まで俺にも向けられたもので。 そして今では向けられるはずもないものだった。 ずっと前から………あいつを好きだと気づいた時から、俺に権利がないのは分かっていたんだ。 隣に並ぶ権利。 抱きつく権利。 好きだと伝える権利。 あの笑顔を向けてもらう権利。 遊矢が微笑んでいるのを見て苦しむ権利。 そして、アイツを想って泣く権利。 視界が潤んで、歪んだ。 ちぎれるくらいに、唇を噛み締めた。 無意識に胸をぐっと掴んだ。 昔から何度だって目にしたこの光景が、遊矢と関われなくなった今こんなにも辛い。 クソ。泣くとか、まじか。情ねぇ。 こらえて。 こらえて。 まだこらえて。 涙を流すまいと、血管が浮き出るほど手を握り締めて。 歩くことも出来ずに俯いていたら。 正面に現れた大きな体が背中に手を回して、少し強いくらいの力で抱き締めてきた。 見えていた2人を、遮るように。 下校時間のためか、ギャラリーから黄色い悲鳴と尻上がりの口笛が。 遊矢とは違う安心する温もり。 微かに香るせっけんの匂い。 ゆっくりとした心臓音が聴こえる。 緊張が緩んで、肩に力が入っていたと気づく。 翔太郎のシャツに涙のシミをつくった。 嗚咽は頑張って漏らさなかった。 「言ったろ? 胸貸してやるって」 俺に言ったセリフが違うっていつ知ったんだろ。 呑気にもそんなことを考えて。 でもホントは結構、馬鹿なこいつに救われていたんだ。

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