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第2話-4
「……お前さ」
翔太郎の腕に抱かれながら呟く。
少し泣いたから心が落ち着いた。
「ん?」
「こーゆーことは好きな子にしろよ」
「大のこと好きなら、問題ないだろ?」
「んー……そう、なのか?」
「そーだそーだ」
「そっか」
優しいな、翔太郎は。
俺もお前のこと好きだぞーって意味を込めてぎゅー!と抱きついた。
そしたらもっと締め付けてきたから、背中をぺちぺち叩いてギブ宣言。
柔らかい笑い声が上からして、今度は頭を撫でてくれた。
涙は引っ込んで気分は清々しい。
「それ、いい。もーちょいしてくれ」
だから少し、甘えたくなる。
「甘えたの大とかお初ー」
「おうおう滅多に見せねぇぞ。脳みそに刻み込んどけ」
「脳みそって刻んでも大丈夫なのか?」
「え、馬鹿なの? あぁそっか馬鹿だった、馬鹿だけども。…ごめん、俺が悪ぃ」
「大はなんもしてねぇぞ?俺もなんもしてねぇけど」
我ながら、否、我らながらあほらしいことを言い合ってたら、ざわめきが一層大きくなる。
なにごとだ。
なにも見えん。
「翔太郎、なんの騒ぎだよ今度は」
「んーなんか、ね。」
「高橋がすげー顔でこっち向かってくる」
ホワッツ?
翔太郎の奥に人の立つ気配がした。
「何してんの」
遊矢の声だ。
サァッと顔の血の気が引く。
感情を極限まで抑えたような氷点下の声音。
昔からそうだ。
遊矢が本気で怒っている時の、ヤバいやつ。
「なにって、大のこと慰めてんだけど?」
振り返りもせずに放たれた煽るような台詞と、後頭部と腰元をホールドされて覆い被さるようなハグ。
翔太郎の声がワントーン低くなったように感じたのは気のせいだろうか。
「てか高橋こそ、立原はどーしたよ」
立原……って、もしかして翔太郎が言っていたマネージャーさんの名前なのか?
あれ。
────遊矢、立原さんのこと置いてきたのか?
翔太郎の質問に、遊矢は無言を貫く。
「彼女が大事なのかもしれないけどさ、幼なじみも大事にしろよな」
………ん? おい、翔太郎? 何言い出すんだ??
「大はなぁ、お前にかまってもらえなくて泣いてんだぞ」
可哀想に、と俺の頭をまたなでなでする。
ちょっと。
ちょっとちょっとやめろよそこの男子。
君にしては少し掠ってるよ。
でも!!!
どー考えても遊矢に非はないんだぜ。
我らが責めるのはお門違いも甚だしいんだ。
ってことを伝えたくとも、翔太郎の背後から漂う冷えた空気に言葉を失ってしまう。
遊矢が何を考えて何を言おうとしているのかが怖くて、背中に回していた手で翔太郎のシャツをぎゅっと掴む。
「遊矢せんぱぁ〜い、急に血相変えて走り出して、どうしたんですかぁ〜。置いていかないでくださいよ、彼女でしょお? ……あれ、翔太郎せんぱい、こんにちはぁ」
「おー」
お待ちかね(いや待ってないけど)、遊矢の彼女こと立原さんのご登場だ。
遊矢は立原さんに返事を返すことはなかった。
代わりに呟く。
「────すげぇ、気分悪ぃんだけど」
その言葉はあまりにも刺々しく。
考えてみれば、俺に向けられたのだと察しがついて。
それでまた泣きそうになる。
そうだよな。
嫌だったよな。
ごめん、遊矢………
「────────大成のこと、誰の許可で触ってんだよ?」
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