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第3話 しるし。

別に俺は目立つ方ではない。 顔も容姿も中の中で、身長はむしろ低い方だ。 なのにこんなにも人目を集めているのは一重に……… 「お、おい遊矢!」 「手なら離さねぇからな」 「ンなっ! は、恥ずかしいんだよ!」 「知らねー」 国宝級イケメンと手を繋ぎながら駅を歩いているからにほかならない。 昇降口で今日の埋め合わせを翔太郎に誓ってから、泣きわめく立原さんと状況が飲み込めていないギャラリーを残してその場を去った俺たち。 ハグから解放されたら代わりに手を繋がされ──しかも恋人繋ぎ──、今に至る。 ………そりゃあ、嬉しい。 これまで誰ともしたことがなかった手繋ぎを、遊矢とできているんだから。 一回り近く大きな手と恋人みたいに指を絡ませて、まるで自分のものだと主張するが如く街を歩ける。 好きな人の背中を追いながら小走りでついて行く。 こんな日が来るなんて、想像すらしてなかった。 だが浮かれてばかりもいられず。 下校や帰宅ラッシュの現在、駅構内にはたくさんの人、人、人。 中には同じ学校のやつもいて。 しかもその中にはスマホをこっちに向けてくるやつもいて。 それに気づいた遊矢が俺を隠すように歩いてくれるのだ。 実を言うと、遊矢にここまでのことをされた経験はない。 だからもはや恐ろしさすら抱いてしまう。 非日常に付きまとうのは一生分ほどのいい事か、あるいは目を逸らしたくなるほど辛いことである。 どちらに転ぶか判断のつかない状況で、しかも好奇の目を向けられる中、やべぇ恋人繋ぎまじ嬉しい死ねるなどと悠長に思ってもいられないのだ。 「ゆ、遊矢! こっから先はさすがに…」 「だから、離さないって言ってるでしょ」 3駅丸々お手手をぎゅっとしながら羞恥と歓喜に耐えた。 最後の難関は家までの住宅街だ。 知り合いにしか会わない道でこんなとこ見られでもしたら……。 「ご近所さんに噂されるだろ!」 「させときゃいいじゃん。困るの?」 「こま、る、って…。嫌なのは、お前だろ」 俺が嫌なわけねーじゃん。ばか遊矢。 家の前まで着いた。 「じゃあ遊矢、ばいば……っておい? 俺ん家ここだけどなんで通り過ぎて?」 遊矢が向かったのは俺ん家のひとつ奥、遊矢ん家だった。 問答無用で玄関まで入った俺は、靴も脱がずあれよあれよという間に 「ふ、ん……あ」 脳まで蕩ける深い口づけが落とされた。

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