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第3話ー3
ニコ、と笑顔で手を振ってくる。
正しく手のひら返し。
一体何に満足したのやら。
常日頃からそこそこな頻度でマイペースだマイペースだとは思ってたけど、これは極度すぎるだろ。
結論だけ伝えられても、いくら腐れ縁だからってなんでもかんでも理解できる訳じゃねーんだぞ!!
「か、帰れって、連れてきたのお前だろォが!」
「じゃ何? まだここいんのかよ?」
俺の優しさが分かんねーかなぁ、という呟きにお前の今日の行いのどこに優しさを見いだせるんだとツッコミたい。
それか、優しさって言葉の概念を国語辞典で百回は引き直して欲しい。割と早急に。
だがとりあえず、キレた俺に対して適切なコメントをされたので狼狽えてしまう。
遊矢が3日前の俺の醜態を目にしてどう思ったのか、まだ分かっていないのだ。
それなのに図々しくも居座っていいものか……。
(上がり込んだのは不可抗力だからノーカウントとする。うん。)
思わずキレてしまったが、それは俺の習性というか性格というか癖のようなものであり。
暗に帰れと伝えられている可能性だって無きにしもあらず。
京都のお茶漬け的な役割ってゆー可能性の出現だ。
コイツの考えが理解できる時ってのはごく限られたひと握りの状況のみであって、今回はそれに該当しない。
「いや、まぁ……せっかく来たんだからちょっと位遊んだりしてもいいんじゃねぇのとは思うけど」
口元でごにょごにょ呟く。
賭けに出て、俺の希望を伝えてみることにした。
素直には言えなかったけど、俺的『いつもみたいに遊んだりしたい』っていう歩み寄りのセリフである。
遊矢ならきっと汲み取ってくれるだろうから、返答によっては今後の関係性が大きく変わる。
心臓がバクバクうるさい。
十数年間生きてきて一番のターニングポイントだと思う。
どうか、拒否だけはしないでくれって強く願った。
……のに、その願いは明後日の彼方へと飛んでいったようだ。
「────二人でいたら襲う自信あるけど、それでもいる?」
「……は?」
「俺は全然ウェルカムだけど? ほらほら。今日はお前ん家で母さん飲むって言ってたから、朝までずーっと、二人だけで、エロいことできるからな」
老若男女問わず虜にする顔のパーツのひとつ、形の整った艶やかな唇の端を上げて両手を広げた。
ココ最近で一番の笑顔である。
それが俺のハートに突き刺さったのは、まあ、言うまでもないだろう。
コイツの口から「朝まで」とか「二人だけで」とか「エロいこと」とかちょっとイヤらしい言葉が出ると、やばい、ギャップで萌え死ぬ。
顔がいい奴はこーゆー時お得だ。
でも、気づいてしまって葛藤が生まれた。
(コイツ、目が本気だ)
なんで? 俺相手に欲情したとでも言うのか?
お前がノンケだって知ってる。痛いほど知ってる。お前の恋愛遍歴一番近くでみてたの誰だと思ってんだ。
お前がかわいい女の子と付き合う度、毎回毎回胸が苦しくて。
実らないって分かってても諦められなくて。
それなのに。
どうせ気まぐれなんだろ?
ガムみたいに飽きたら捨てるんだろ?
変な期待、させないでくれよ。
俺のこと好きでもないくせに。
「たーいせい?」
聞き慣れた低音ボイスかつ甘すぎる微笑みでこてんと首を傾け、俺の返事を待った。
──分かっていても、揺らいでしまうのだ。
惚れるが負け。
だからずっと前から、俺は遊矢に負けている。
俺から離れるなんて無理だ。
もっと近くで、幼なじみなんかよりうんと近い場所でお前といたいって思ってるから。
口の中が乾いている。
俺は、俺は………────
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