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第3話ー4
高野豆腐のように水気を失って乾ききった口を開いた、その時。
テン、テテテテテテテテテテてん
呑気な着信音が玄関にこだまする。
「あ……俺だ」
「誰から?」
「ち、ちょっと待て」
遊矢の声が冷たくなった気がして、慌ててブレザーから取り出した。
表示されているのは『母さん』の文字。
「母さんだ」
「あー…そ。」
腕を下ろした遊矢に、出れば? って目で促される。
画面をスワイプして耳に当てた。
「も、もしもし…?」
『あ、大成ー? 悪いんだけど、帰りにウインナーとチータラとカシューナッツと柿の種買ってきてちょーだい。あと梅酒とチューハイも』
「驚くほど酒のツマミしか頼まれてないんだけど。それはいいとしても、オタクの息子はまだ未成年ですが」
『そーだっけー?』
「高校留年した覚えはないからな」
『んー……じゃあ食べるのだけおねがーい。お酒はみっちゃんたちに頼も〜』
「最初からそーしてくれ」
『はーいはい、よろしくね〜』
語尾にハートが飛んできそうなノリで、プツンと電話が切れる。
………まったく、真面目な高校生の息子に酒を買わせようとするな。
ちなみにみっちゃんこと美優紀さんは遊矢の母親で、俺らの母さんと近所の何人かはママ友兼飲み友。
週末には決まって誰かの家で缶ビールやら一升瓶やらを浴びるように呑んでいる。
みんなして酒豪だから翌日の空き缶の量がまあ、すごいこと。
飲みきったやつは全部潰してんのにでかいゴミ袋いっぱいなんだ。
しかも二日酔いしないってんだからさらに恐ろしい。
母親の肝臓はチートだと思う。それか肝臓だけ人外の造りをしてるんだ。
ホーム画面の時間を見れば、19時を回ったところだった。
電話口の声は既にアルコールが少しまわっていたように思う。
先に一人で飲み始めたのだろう。
本当はもう家の近く(てゆーか隣の家の中)だけど、おつかいを頼まれたからにはスーパーへ行かなければなるまい。
「遊矢、俺帰るわ。母さんに買い物頼まれたし」
スマホをしまいながら声をかける。
「はーい。また明日ね」
どうしてだか機嫌良さげな遊矢にヒラヒラと手を振って見送られ、俺はスーパーへと歩みを進めた。
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