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第3話ー6

赤い、と言われても全く身に覚えがない。 「ほらそこの右っ側の」 「ここ?」 「あー違う違う、もっと上!」 「ここか?」 「近い!もうひと声!さらに左を目指そうか?!」 「………めんどいからトイレ行ってくる」 そもそも、どこか分かった所で自分で見えなきゃ意味がない。 どの道鏡が必要だった事に気づいたから立ち上がった。 するとどうしたことだろう、まるでタイミングを見計らったかのように廊下がざわめき始める。 耳に届くのは女子高生の黄色い悲鳴。 この学校で女子からの悲鳴を浴びる奴ってのは三人と限られていて、内一人はちょうど会話をしていた鳴海翔太郎だ。 ちなみに翔太郎を見てキャーキャー騒ぐのは下級生か上級生に限る。間違っても同級生が騒ぐことは無い。 どんなに間違えても、だ。 なんてったって見た目は良くても馬鹿だから。 大事なことだから念の為もう一度言うと、顔の良さや運動神経の良さじゃ到底庇いきれない程馬鹿だから。 それを知ってもなお騒ぐ女子はこの学年にいない。断言出来る。 二人目は三年の生徒会長さん。 1個上の先輩で、関わりはほとんどなく、フロアが異なるため会うことすら皆無だ。 唯一、全校集会の時に遠目から見たことはあるが、メガネをかけたスラッと美人でミステリアスな雰囲気を漂わせていた。 こりゃあモテるだろうなって納得する位の美形だった事が印象深い。 そしてもう一人は何を隠そう、アイツ、なんだ、けど……。 クラスは別の階だし、アイツが俺のとこに来るなんて滅多にない。 前に教室まで迎えに来てくれたのだって半年に一度あるかないかのレアさ。 だから、有り得ない………、はずだ。起こり得ない。 まさか、まさかそんなはず────、 「大成」 渦中の主は俺の教室の扉に姿を現す。 まさかであった。 爽やかな微笑みをたたえてこちらに呼びかけてきたのは紛れもなく、老若男女問わずすれ違った人に3度見からのガン見される絶世の美青年、遊矢である。 口はいささか悪いが翔太郎と違って顔が全ての免罪符になる。 癖のない天性の薄茶色なストレートヘアは廊下の窓から差し込む朝日を纏って儚く輝き透き通っていた。 突然の登場とその絵画のような光景に俺もクラスの奴らもぽかぁんとだらしなく口を開ける。 能天気に「あれ、どーした?」なんて声をかけられるのは翔太郎くらいだ。 当の本人は周りの様子など気にも止めずに、なんなら翔太郎に「んー…ちょっと、な?」なんて意味ありげに微笑みながら、スラリと伸びた長い足で俺の元まで来た。 目の前まで迫ってようやく、俺は言葉を紡ぐ。 「遊矢お前、…どうしたんだよ、急に」 ここら辺にいる人もれなく全員驚いてるぞ。心臓に悪い。すごく悪い。 それに、なんの用があってわざわざ来たんだ? 面倒くさがりだから用件の大体をスマホへの連絡一つで済ませるのに。 怪訝に思って尋ねる。 それに対して、端正に整った顔をふわり、惜しみなく微笑ませてきて。 それだけでもう綺麗で、かっこよくて、好きが溢れて胸が苦しい。 心臓が絞られるようにぎゅうっと心が痛かった。 「確認、したくてさ」 サラリと髪を靡かせて顔が近づく。 (あ、………シトラス)

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