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第12話※
「……ぁ……?」
葵が少しでも多く酸素を吸い込もうとしていると、一度身体を離した雅弥が枕の横から小さな正方形の袋を出して封を切っている姿が見えた。
その状況を理解しようとする前に、雅弥に両足を抱え直されてしまった。
「入れるよ……葵くん」
「あ、んっ……」
いつもよりも色っぽい声で雅弥が呟いたかと思うと、さっきまで指で弄られていた場所に、熱くて硬いものが入ってきて、葵は無意識に息を詰めてしまう。
「あっ……痛、い……もぅ、やだぁ」
「……キツっ……葵、くん……ゆっくり息吐いて」
完全に葵は泣いていたようで、慰めるように雅弥は優しい動きで葵の頬を撫でる。
「んぅ……あ……」
雅弥がさらにローションを垂らしたらしく痛みが和らいできたので、葵は言われた通りにゆっくりと呼吸をすると、中の圧迫感が増してくる。
「はぁ……大丈夫? 痛くない?」
大きく息を吐いた雅弥が、どこか安堵したような声で聞いてきたのにたいして、葵は小さく頷いた。
確かに最初に比べれば痛みは感じないけれど……何か変な感じがする。
「じゃあ……動くよ」
そう言って、雅弥が腰を引いて何度かゆっくりと行き来したかと思うと、次の瞬間には勢いよく奥まで割り込んできた。
「んあ、ああっ!」
その途端、さっきまでの変な感じが、電流のように一気に葵の身体中へと走り抜けていった。
「葵くん、ここがいいの?」
「あっ、やぁ、ああ、んぅ」
雅弥自身が深くまで入ったまま、小刻みな動きでそこを刺激されると、葵は何も答えられずに甘い声をあげるだけになってしまう。
そんな葵の様子に雅弥は確信したのか、その場所を集中的に攻めてくる。
「そろそろ……欲しい?」
喘ぎ続ける葵は、雅弥にそう聞かれてもなんのことだか考えるまで思考が働かない。
すると、いきなり雅弥が葵の腰と背中に腕を回したかと思うと、そのまま葵の身体を抱き起こした。
「あ、ああっ!」
当然、葵の身体は重力に逆らうことなく、雅弥へと全ての体重を預けてしまうことになる。
さっきよりも深い繋がりに、葵は怖くなって縋るように両手を雅弥の背中へと回し、しがみついた。
雅弥はそんな葵の後頭部を撫でながら、落ち着いた声で言った。
「ほら……そんなに強くしがみついてたら、血が吸えないよ」
(……え?……あ、そうか)
だんだんと当初の目的を思い出しかけた葵が腕の力を抜いて少し身体を離すと、僅かに首を横に倒した雅弥がまっすぐな首筋を葵の目の前に晒す。
「はい、いいよ」
「え、このまま……?」
葵の中でその存在感を主張し続ける雅弥自身に、何か落ち着かない気分になってしまう。
「入れたままじゃなきゃ、吸わせてあげない」
「おい……!」
(血を吸わせてもらえないなら、何のためにここまで恥ずかしさに耐えたと思ってるんだよ!)
そう抗議しようとした葵の唇に雅弥は軽く一度キスをすると、いつもの子供っぽい笑みを見せて言った。
「だから、このまま……ね?」
言いながら、さらに首筋を近づけられると、葵としてもこれ以上は何も言えなくなってしまう。
多少の不満は残りつつも、葵は黙ったまま雅弥の両肩へと手を置いて目を閉じた。
そして、牙を入れる場所へと意識を集中すると身体の中で何かがざわざわと波たつのを感じる。
「耳が変わってきたね……牙も」
雅弥の言うとおり、葵の吸血鬼としての変化が現れてきたようだ。
気持ちが落ち着き始めて一呼吸つくと、葵はゆっくりと目を開き、少し緊張しながら雅弥の目を見つめる。
その目は、魔界での葵を表す赤へと変化していた。
雅弥はそんな葵の姿に動揺することもなく、女の子なら絶対にときめきそうな笑顔で言った。
「大丈夫だから」
余程、葵が不安そうな表情をしていたのだろう。雅弥にそう励まされた。
「…………」
葵は覚悟を決めて、雅弥の首筋へと顔を近づけていく。
久し振りの感覚に緊張が高まり、首筋に牙が触れた瞬間に少し躊躇してしまう。
すると、雅弥にそっと抱き締められて、どこか安心出来る自分を葵は感じていた。
そんな雅弥に後押しされるかのように、葵は牙を雅弥の首筋へと食い込ませる。
「……んっ……」
その瞬間、雅弥が小さく声を漏らしたので、葵は怖くなって雅弥から離れようとした。
けれど、それは雅弥本人に強く抱き寄せられて出来なかった。
「平気だから……続けて」
雅弥はそう言うが、加減がよくわかっていない葵には怖くてこれ以上は何も出来ない。
近くで感じる雅弥の吐息はどこか熱く感じるし、もしかしたら自分のために痛みを堪えているのかもしれない。
そんな心配をして葵が身動きとれずにいると、雅弥が熱い吐息とともに呟いた。
「血を吸われる時が気持ちいいって……本当だったんだね」
(え……もしかして、さっきの呻きって痛みを堪えたからじゃなくて……ミヤビ、感じてた?)
葵のその問いを肯定するかのように、葵の中に入ったままの雅弥自身がさっきよりも熱く感じる。
まだ少し半信半疑ではあったけれど、ゆっくりと牙をさらに深く刺してみると、明らかに苦痛とは違う吐息が雅弥の唇から零れる。
その声にホッとして、葵はそのまま吸いつき、初めての吸血行為を行う。
「……んっ……」
口の中に流れ込んでくる温かい血を飲み干すと、今までに感じたことがないような力が身体中へと広がっていく。
きっと、これが悠陽の言っていた吸血鬼としての本来の力なのだろう。
(生き血って……こんなに甘いものだったんだ)
初めて飲むそれは、いつも飲む予備の血のような薄味ではなく、まるでおいしいお酒のように葵の気持ちを高揚させた。
そして、常に感じていた貧血による倦怠感も嘘のようになくなっていく。
「……はぁ」
雅弥の身体への支障が出ない程度の量を飲み、葵が首筋から顔を離した瞬間、腰を雅弥の両手で掴まれた。
「ごめん、葵くん……限界」
いきなり謝られたかと思うと、それと同時に思いっきり腰を動かされ、忘れていたさっきまでの快感が蘇ってくる。
「あっ、んあ、な、なんか……さっき、よりも……んぅっ」
中がキツい……と言おうとすると、雅弥が熱い吐息とともに葵の耳元で言う。
「ただでさえ血吸われて気持ちいいのに……吸い終わった瞬間、葵くんが締め付けるから」
「なっ!」
そんなことをした覚えはないが、無意識の反応を指摘されて恥ずかしさがこみ上げてくる。
でも、それすらも気にしている余裕がないくらいに激しく突き上げられて、葵は声が止まらない。
「はぁ、あっ……やぁ、ミヤビ……もう無理、んぅ」
「ん、俺も。葵くん、そろそろ……いい?」
「んぁ、ああっ、あ……」
限界だと思えるくらいに攻められ、葵は言葉で返す代わりに雅弥の身体に強く抱きつき何度も頷いた。
「んっ……葵、くん」
「あ、んあっ……ああっ!」
葵は大きく喘ぐと同時に我慢出来ず、自分自身を解放した。
そして、中の存在感が一瞬増して雅弥もイッたのがわかると、葵は一気に脱力してしまい全ての体重を雅弥へと預けてしまう。
「はあ……大丈夫?」
少し呼吸を乱しながら、雅弥がそう言って優しく葵の身体をベッドへと横に寝かせてくれた。
雅弥の血をもらったからか、魔界にいた時でさえ感じたことのないくらい強い魔力を体内に感じるが、体力的には初めて経験した受け身の情事にかなり疲労している。
(このまま寝れそう……)
そんな葵の様子に気づいたのだろう。
いまさらながらに葵ので汚れてしまったバスローブを脱ぎながら雅弥が言う。
「葵くん、今日、泊まっていきな。今、湯船の用意するから、それまで寝てていいよ」
その雅弥の言葉に気が緩んだ葵は、それに甘えさせてもらうことにして、ゆっくりと瞼を閉じていった。
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