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第14話

 仕事終わりに色々と食べ物や飲み物を買い込んで、葵は約束通りに純の家へと向かった。 「どうぞ、あがって~」 「お邪魔しまーす」    純に促され中へと入ると、明らかに純の物ではない荷物がいくつか点在していることに気づく。  ハンガーにかけてある服だって、どう見たって純のサイズよりも小さい。 「荷物、好きなとこ置いて……あ、そこら辺にマコの荷物あるけど、勝手にどかしていいから」 「やっぱり、このサイズはマコのか」    荷物を置きにいった純の自室から聞こえてきた想像通りの答えに、葵が納得すると、ちょうど部屋着に着替え終えた純が、笑いながら戻ってきた。 「ちょくちょく行き来してるうちに、お互いの私物が混ざっちゃって。探しても見つからないものは、たいていマコん家にあるしね」    そう言いながら純が葵へと部屋着を貸してくれたので、素直に受け取り葵も隣の部屋で着替えた。 「そういえば、俺と食事するって……マコ、何か言ってなかった?」    リビングに戻ると、すでに純がキッチンで何かを調理し始めていたので葵は買ってきた物をテーブルに並べながら、その後ろ姿へと声をかける。 「ん~、特には。何か、これから魔界に戻るって言ってたし」 「魔界に?」    純を独占してしまったとしたら、誠に悪いなと思って聞いたのだが、予想外の返答に葵は驚いて聞き返してしまった。 「呼び出されたみたいだよ。すぐ戻るとは言ってたけど」    調理し終えた山盛りのチャーハンを手にキッチンから出てきた純も、それ以上のことは詳しく知らないらしい。  誠が呼ばれたということは王家からの連絡だろうが、帰って来る時には悠陽も何も言っていなかったし、ずいぶんと急な呼び出しだ。  まあ、明日になれば何かしらの報告が誠からあるだろうと安易に考えて、葵は純とビールで乾杯をして夕飯を食べ始めた。  そして、ある程度テーブルの上の食事も片付き、改めて食後のお酒を楽しみながらやっと本題へと入る。 「純はさ、今、マコに血をあげてパートナーになってるでしょ?……それって、どんな気持ちから?」    なんだか抽象的な質問になったな、と葵が少し反省していると、そんな葵の戸惑いを感じ取ったのか、純も真面目なトーンで答えてくれた。 「俺が禁忌の存在だってことは葵ちゃんも知ってるでしょ? 能力については?」    その質問に葵は首を横に振って答えた。  確かに純が禁忌の存在で、普通の淫魔とは違う能力を持つことは知っていたけれども、その特異な能力については葵は聞いていなかった。  悠陽も知らないようだったし、唯一知っていた誠も、あまり詳しくは話したがらなかったからだ。  すると、純本人が話し始める。 「普通、男の淫魔は女を……女の淫魔は男を魅了する力があるよね。それが、俺の場合は両方あるんだ」  その後の純の説明によると、純は力が弱ってきたり、逆に力を溜め込みすぎると特に女の方の能力が強く出てきてしまうらしい。 「マコに会うまでは、俺、自分が淫魔だなんて知らなかったから、なんで男にこんなに言い寄られるんだろう……って悩んだりしてさ」    魔界で自分達の能力について色々な教育を受けて育った葵達と違って、純は自分の能力も正体も知らされず、人間界で生活していた。  その少し寂しそうな言い方が、純が色々と苦労をしてきたのだということを葵に伝えていた。 「でも、いきなりマコが俺の前に現れて、魔界がどうとか、俺が淫魔だとか、一気に説明してくるんだもん」 「それは、また……唐突な」    葵が自分の言葉に同意的な返事をしたからか、純はさらに勢いよく話を続ける。 「だよね~。意味わかんないから無視してたら、何日もつきまとってきてさぁ。新手のストーカーかと思ったし」    純の話を聞きながら、葵はちょっと意外な誠の一面に驚いていた。  誰よりも周りの空気を感じ取るのが上手く、頭の回転も早い誠のことだ。何もわかっていない純にいきなり魔界のことを話したなんて無茶は誠らしくない。  普通に考えれば、魔界や吸血鬼、淫魔なんて簡単には信じてもらえないようなレベルの内容だ。 「あげくには、俺が理解してないうちに『淫魔だって証明してあげる』とか言ってキスしてくるしさ!」 「ぶっ……!」    純の言葉に、葵は危うくビールを吹き出しそうになる。 「キ……キスって、いきなり?」    想像もしていなかった話の展開に、葵はそばにあったティッシュで口元を拭きながら聞いてみる。  すると、純は今までの勢いが嘘かのように穏やかな表情で頷く。 「だけど、それが俺には良かったのかも。悩む暇もなく、魔界の力を見せつけられて」    なんて純は笑いながら言うが、葵の頭の中は軽く混乱状態になっていた。 (キスで淫魔を証明するって……魔界の力関係なくね?)    誠のキスがどんなものかは知らないが、淫魔だからってキスに反応するとは限らないし、その逆に淫魔じゃなくても反応することだってあるだろう。 (俺だって、ミヤビに……)    雅弥とのキスを思い出しかけて葵が顔を熱くしている間にも純の話は続いていく。 「だって、いきなりキスされてそのまま血を吸われたら吸血鬼だって信じないわけにいかないよね。まあ、そのマコのおかげで俺も淫魔として自覚出来たわけだし」    無邪気にそう言う純に、葵の頭の中から完全に雅弥とのことは吹き飛んでいた。  純は同性である誠のキスに反応したから自分が淫魔と自覚したと思い込んでいるようだが、きっとそれは間違いである。  たぶん、純が誠のキスに欲情したのは誠の吸血行為による副作用が原因だろう。そして、誠も絶対にそのことはわかっているはずだ。 (純……お前、マコに騙されてるぞ)    葵はそう思ったが、当の本人が全く疑っていないし、むしろ誠に対して感謝しているようなので強く言えずに言葉を飲み込んでしまった。 (まあ、二人がそれで幸せならいっか)    そう納得しようと葵が思っていると、純が今度はふて腐れた様に言う。 「でも、自覚だけじゃなくて淫魔としての能力も完全に目覚めちゃったから、頻繁に発散させなくちゃいけなくて大変なんだ~。マコに責任とって手伝ってもらってるけど」    口ではそうぼやいているが、その表情はどこか幸せそうで、誠と純はまさしく、なるべくしてなったパートナー同士なのだろう。

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