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第15話
「本当にお互いのパートナーなんだな」
「俺はマコのおかげで自分の能力を受け入れられたからね。マコには感謝してるよ」
「感謝だけじゃないだろ?」
お互いの家に自然と荷物が行き来しているのは、二人の関係が特別なものであることの証でもある。
葵からの問いに純は持っていたビールを飲み干し、答えた。
「まあ、好きじゃなかったら、わざわざ自分の血をあげるなんてしないよ。マコもさ、あまり言葉では言ってくれないけど、嫌いな相手の血なんか飲みたくないでしょ? 体力使わせられるって文句言うけど、結局、最後まで俺の相手してくれるし」
「嬉しそうにノロケやがって……ごちそうさまです」
葵がそう言うと、純は少し照れくさそうに笑う。
その笑顔が、本当に純と誠が強い絆で結ばれていて幸せなんだということを証明しているようで、葵はなんだかすごく羨ましく感じてしまった。
お互いがお互いを支えあっていて、ちゃんとその間には言葉ではない愛がある。
すると、純が葵の予想もしなかった質問をしてきた。
「葵ちゃんも、そうじゃないの?」
「へ?」
質問の意味がわからず、葵の口から間抜けな声が零れた。
それに対して純も驚いたように、聞き返してきた。
「え……だから、葵ちゃんが吸血した相手のこと。だって葵ちゃんのことだから、いきなり見知らぬ人を襲って吸血なんてしないでしょ」
それが出来るくらいならとっくに吸血出来てるもんね~、なんて笑いながら言う純に、葵は少しムッとする。
(悪かったな、どうせ俺はヘタレですよ)
葵が地味にいじけて黙っている間にも、純の言葉は続く。
「だから、その人の血を吸った葵ちゃんも、葵ちゃんに血をくれたその人も葵ちゃんのことを……お互いに好きなんじゃないの?」
「……好き……?」
(俺がミヤビを? ミヤビが俺を……?)
「いやいや、そんなことないって! 俺の場合、吸血もなんとなくの勢いだったし。相手にそんな素振り全くないし」
純の言葉を頭の中で自分と雅弥に置き換えた瞬間、葵は思いっきりその意見を否定していた。
確かに雅弥のことは嫌いじゃないし、雅弥も葵のことを嫌っているわけではないだろう。
でも、純が言いたいような恋愛感情が自分達の間にあるとも、葵は思えなかった。
純と誠を公私共にパートナーと言うならば、葵と雅弥は秘密を共有している……仕事上のパートナー? そんな言葉の方がぴったりはまる。
何故なら葵は吸血以外の目的で雅弥の家に行ったことがないし、どこかに二人で出かけるということもない。仕事以外でお互いがどこにいようと、誰と会っていようと全く干渉もしない。
そんな状態で、雅弥が自分のことを好きだなんて、葵はとても思えなかった。
「だいたい、向こうは人間なんだからさ。ずっと一緒にいられない相手を俺が好きになるわけないじゃん」
そして、それは雅弥にも同じことが言えるはず。
普通の人間ではない葵の正体を知ってまで、好きになるはずなんてないだろう。
ただでさえ、男同士……それに人種まで違うなんて、そんなリスクを人間である雅弥が冒すとも思えない。
純の意見を否定するために言った自分の言葉が、まるで自分自身を納得させるために聞こえて葵は変な気持ちになる。
そんな葵に駄目押しをするかのように、純が強気な口調で聞いてきた。
「じゃあ、相手が人間じゃなくて同じ魔界の者だったとしたら? いつも一緒にいられる存在だってわかったら、葵ちゃんはどうするの?」
(……ミヤビが魔界の者だったら? もし、そうならマコと純みたいにパートナーとして支えて欲しいって気持ちはあるけど……でも)
「そんな、もしもの場合を考えたって……仕方ないよ」
「葵ちゃん」
「俺はいつか魔界に戻る。相手はずっと人間界にいる……それは間違いのない事実だから」
葵のその言葉が純の問いの答えになっていないことはわかっていたけれど、葵にはそれ以上の言葉が出てこなかった。
「その人のこと、好きなんだね……葵ちゃん」
そう言って慰めるように、葵の頭をぎゅっと抱きかかえた純の胸に素直に顔を埋めたまま、葵は何も答えなかった。
(違うよ、純……確かに俺にはミヤビが必要だけど、そこに恋愛感情を持っちゃいけないことは俺自身が一番わかってるから。だから、俺がミヤビを好きになるなんてありえないよ)
そう思いながら純の腕に包み込まれ、葵は雅弥の腕の中にいる時のことを思い出していた。
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