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第21話
いきなりのことで、意味を理解できずに呆然としてしまった葵に言い聞かせるように、雅弥が再度ゆっくりと告げる。
「俺の正体はウルフ族の狼男……葵くんと同じ魔界の住人だよ」
「……うそ、だ……」
雅弥の言葉を信じられないと疑う気持ちと、信じたいと思う気持ちが胸の中でごちゃ混ぜになって、葵はそれしか言葉を返せなかった。
すると、雅弥は安心させるかのように葵の顔を覗き込み、優しく笑うと窓へと近づく。
「嘘じゃない。ちょっと見てて」
そして、そう言うとカーテンを開け放ち、空を仰ぎ見た。
しばらくすると、満月を見つめていた雅弥の身体が変化をし始める。
両手の指は爪が鋭くなり、耳も獣のものへと変わっていき、それと同じ毛並みの尻尾も生えてきた。
「ね? これで信じてくれた?」
そう言って振り返った雅弥の瞳は、人間の時とは違い魔界特有のパープルへと変わっていて、葵が知る狼男と同じ姿になっていた。
「……本当に?」
「まだ信じられないなら、完全に狼の姿になろうか?」
目の前で変化を見せられたというのに、まだ全てを信じるのが怖くて葵は目の前まで来た雅弥の顔や耳に触れて確認する。
ペタペタと触り続ける葵を雅弥は優しく見つめながら、葵が信じられるまで好きにさせてくれた。
そして、そのままおとなしくジッとしながら話し出す。
「葵くんも魔界でのウルフ族の争いは知ってるでしょ?」
その言葉に葵が誠から聞いた話を簡単に説明すると、雅弥は頷きながら喋り始める。
「実は、その時期後継者候補が俺なんだ。今のウルフ族の長は俺の父親」
予想もしていなかった告白に葵が驚いていると、雅弥が葵の手を取りそっと包み込んだ。
そのままその手の甲にキスを繰り返しながら説明を続ける。
「だから俺は今まで人間界に身を隠してた。だけど、世代交代なんて噂のせいで人間界にまで俺を狙う反乱者が来ちゃって……」
つまり、雅弥が体調を崩していたのは葵の吸血行為が原因ではなく、ウルフ族での争いが原因だったようだ。
昼間はアイドルとしての仕事をこなし、夜中は反乱者からの襲撃を一人で撃退していたとのことだった。
「全く、連日のように襲ってくるもんだから睡眠不足にはなるわ、体力は消耗するわで……そのせいで、葵くんにも余計なこと考えさせちゃって……ごめん」
謝りながら葵の身体を抱き締めてくる雅弥の胸に顔を埋め、葵は涙で濡れた顔を隠して呟いた。
「一人でそんな無茶して……心配させんな」
責めるようにそう言うと、雅弥の手が優しく葵の髪を撫でてくれる。
「うん、ごめんね……でも、葵くんだってそんなになってまで血を吸わないなんて無茶しないでよ」
「だって……!」
逆に雅弥から注意をされて言い返そうとした葵の唇へと雅弥がキスをしてきたせいで、言葉が止まってしまった。
そして、すぐに唇が離れたかと思うと真っ直ぐに瞳を見つめられ、真剣な表情で雅弥が言った。
「わかってるよ、俺のためだったんでしょ。でも、これでわかったよね、俺なら大丈夫だって。俺が葵くんのパートナーになるから、俺以外からは血を貰わないで」
言いながら雅弥に誘導され、そのまま二人でソファへと腰を下ろす。
初めてみる雅弥の紫の瞳に吸い込まれそうなほどに見つめられ、身体の中が熱くなってくる。
そんな葵の変化に気づいたのか気づいていないのか、雅弥が改めて襟元を開き葵へと首筋を差し出してきた。
「もう、お前以外の血じゃ……満たされないよ」
言いながら、今度こそ葵はその誘惑にあらがわず吸血鬼へと姿を変化させていく。
そして、雅弥の背中へと腕を回すと抱きつくようにして、その首筋へと牙をたてた。
「んっ……」
久しぶりに味わう雅弥の生き血に、葵は身体中に力が行き渡るのを感じる。
以前は何も気にせずに保存用の血を飲んでいたのに、この味を知ってしまってからは他では味を感じなくなってしまった。
今の葵の全てを満たしてくれるのは、もう雅弥しかいない。
「赤い綺麗な瞳……」
首から顔を離すと葵の瞳を見つめながら、雅弥がそう言ったので葵も見つめ返しながら言う。
「お前の紫だって綺麗だよ」
言った途端、雅弥が嬉しそうに笑ったので、何だか急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
何かを言いたげな雅弥の口を塞ぐ意味もこめて、葵は自分から雅弥の唇へとキスをした。
久しぶりの感覚に夢中になっていると、しばらくして雅弥にそっと身体を押し戻された。
「身体は、もう大丈夫?」
そう聞かれて葵が頷くと、雅弥が安心したように笑った。
雅弥のおかげで葵の貧血も完全に治り、また吸血鬼としての力が身体に溢れてきている。
「良かった……あの、さ……葵くん」
「何?」
珍しく歯切れの悪い雅弥を不思議に思いながら聞き返すと、雅弥が気まずそうに言った。
「病み上がりのところ、悪いんだけど……これ」
そう言って下を向く雅弥につられて、葵も視線をそちらへと向ける。
「あ……」
雅弥の言いたいことを理解した途端に『どこの乙女だよ!』とツッコミたいくらいに、葵は自分の顔が赤くなるのがわかった。
なぜなら、そこには明らかに今までの行為で雅弥が欲情したという証が、服の生地を押し上げるくらいにはっきりと主張していたからだ。
恥ずかしくて雅弥の目を見ることが出来ず、俯いたまま葵は雅弥の真っ正面になるようにソファから立ち上がった。
そして、そのまま床へと座り込み、雅弥のズボンへと手をかけた。
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