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第2話
ユキちゃんは、三年二組だと言っていた。つまり、その教室に行けばユキちゃんに会えるということだ。
学校祭が終わった翌週、昼休みの時間を使って俺は、三年二組の教室を目指した。
三年二組にはサッカー部のキャプテンがいる。キャプテンに頼んで、ユキちゃんを呼んでもらおう。
男子トイレで、身だしなみを確認する。あんなに可愛いユキちゃんに会うのだから、中途半端な恰好はできない。
(鏡……しっかり見たことなかったなぁ)
短く刈り上げたこげ茶色の髪は、スポーティな感じがして気に入っている。肌が若干焼けているのも、練習を頑張っている証拠な気がして好きだ。
身長は百七十センチ未満だけれど、まだまだ成長期。これからに期待だろう。
生きてきた中で最も気合を入れて結んだネクタイは、曲がっていない。トータルして、俺史上完璧の外見だ。
男子トイレから出て、俺は目的地に向かって歩き出す。サッカーの試合でコートに入場する時よりも緊張している気がした。
(な、何て言おう……っ)
いきなり告白……は、早すぎる。となると、自己紹介? その前に、どこに呼び出せばいいんだろう。そもそも、呼び出してもいいのだろうか?
思考はグルグルとまとまりを見せないのに、目的地は見えてしまった。三年二組と書かれたプレートが、教室の壁から吊り下がっている。
「お? 織戸じゃねぇか! どうした?」
ナイスなのかバッドなのか……絶妙なタイミングで、キャプテンが教室から出てきた。俺を見つけたキャプテンは、不思議そうに俺を見下ろしている。
「こんにちはッ! ひ、人をッ! 探していましてッ!」
声が裏返った。恥ずかしい。
キャプテンは尚更不思議そうに俺を見下ろして、小首を傾げた。
「人探し? うちのクラスにか?」
「は、はいッ!」
「誰だ? 呼んでやるぞ」
キャプテンを見上げたまま、頭の中で何度も呼んだ名前を答える。
「『ユキ』って先輩を……!」
「『ユキ』?」
突然、キャプテンが考え込む。もしかしたら、『ユキ』という名前はコンテスト用の源氏名的なもので……本名は全く違うのかもしれない。
すると、心当たりがあるのか……キャプテンは手を叩いてから、教室の中を振り返る。
「おーいッ! 雪染 ッ! 客人だーッ!」
そう言われて立ち上がった生徒は……何故か、男子生徒用の制服を着ていた。
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