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第3話
雪染と呼ばれた生徒が、俺とキャプテンの近くにやって来た。
「何? っつーか、お前がオレのこと呼ぶの珍しいな?」
声も、目付きも、髪も……ユキちゃんと同じだ。
――なのに、ズボンを穿いている。
俺が困惑している間にも、話が進んでいく。
「お前に話があるんだってさ」
「コイツが?」
「おう。一年生の、織戸だ」
俺より少しだけ背の低い雪染先輩が、ジロジロと俺を眺める。
「何?」
制服が、男物……一人称が『オレ』? 恐る恐る、俺は雪染先輩を見つめ返す。
「あの……学校祭で、コンテストに出てましたよね?」
「そうだけど」
「ユキって……優勝、してましたよね?」
「そうだけど」
――一つの憶測が、浮かんできた。
俺の憶測に気付いたのか、雪染先輩が口角をニヤリと吊り上げる。
「もしかして……オレのこと、女だと思った?」
「っ!」
分かり易く狼狽した瞬間、雪染先輩が吹き出した。
「プッ! アハハハッ!」
腹を抱えて笑い出し、隣に立っていたキャプテンの背中を叩き出す。キャプテンは訳が分からないのか、ひたすらに困惑していた。それでも、雪染先輩は笑っている。
「ハハッ! ザ~ンネン! 男でした~!」
ニヤニヤと笑ったまま雪染先輩はおもむろに、ワイシャツの襟を指先で下げた。晒された喉元には……しっかりと、喉仏がある。
――ユキちゃんは、男だったのだ。
「織戸クン、だっけ? ハハッ! 可愛すぎてごめんね? ハハハッ!」
好きな子と同じ顔でそう言う男は、涙が出る程笑っている。
後で知ったのだが、ユキちゃんが優勝したコンテストの名前は……とんでもないものだった。
【~美少女コンテスト~(男子生徒の参加も可!)】
……そんなの、美少女コンテストじゃないだろ!
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