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第4話
何故か俺は、雪染先輩に気に入られた……と言うか、オモチャ扱いされるようになってしまった。
連絡先を交換させられて、時々からかうように自撮り写真を送られて、訊いてもいないのに雪染先輩について教えてくれて……着実に、距離を詰めている現状。
雪染先輩は演劇部に所属していて、学力は並、運動神経はかなりいい方らしい。そんなことを知ってしまうくらいには、距離が縮まっている。
そして、移動教室。俺が友達と一緒に歩いていると、たまたま廊下を歩いていた雪染先輩と目が合う。その度に、雪染先輩は俺に近付いてちょっかいをかけてきた。
「あ、織戸クン! 今日は朗報があるよ~」
ニヤニヤした雪染先輩を見ると、嫌な予感しかしない。
――けれど、顔に罪は無いのだ。
距離を取りたくなるけれど、にやけ顔だとしても笑顔には変わりない。雪染先輩にムッとした顔を向けるも、毎回話は聴く。
「何ですか?」
「オレ、次の演劇でお姫様役なんだぜ! つまり、主役ってこと!」
雪染先輩の、女装……? 思わず、声が裏返りそうになる。
「へ、へぇ……っ?」
「おっ、興味津々じゃ~ん? ハハッ! 分かり易いなぁ!」
ひとしきり俺をからかった後、雪染先輩は満足そうに俺から離れていく。これがいつものやり取りだ。
女と間違えていたとはいえ……俺は、ユキちゃんに恋をした。厳密には、顔を好きになったのだ。
だから……雪染先輩にどれだけからかわれようと、意識してしまうのは仕方ないだろう。
(何なんだよ! 可愛すぎるッ!)
完全に弄ばれているのは分かっている。雪染先輩は俺が狼狽する姿を見て、楽しみたいだけだ。からかわれているだけなのは、ちゃんと分かっている。
だけど……俺を見つける度に近寄ってきたり、ほぼ毎日連絡をくれたり……笑顔を向けられると、もう駄目だ。
――俺は、雪染先輩を意識している。
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