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第8話
練習が終わり、明日の大会に向けてストレッチをしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……よっ」
相変わらず女子の制服を着た雪染先輩が、ムッとした顔で俺を見ている。声も、ちょっとだけ不機嫌そうだ。
ちなみに、不機嫌そうなのは昨日からだった。……厳密に言うと、俺の下心アリアリ発言を聞いた時からだ。
――でも、欠かさず練習を見に来てくれる。
「……っす」
照れ臭くて、イマイチな挨拶を返す。
雪染先輩はムッとした顔のまま、俺の近くに立つ。
「明日、勝てそ?」
筋肉を伸ばしながら、何てことないように答える。
「ご褒美が欲しいので、勝ちます」
「……っ。そ、そっか」
チラッと顔を盗み見ると、ヤッパリ不満げだ。
「ご褒美の撤回するなら、今ですけど……」
もしも『後に引けない』とか思われているのなら……無理強いしたくない。いや、ご褒美は欲しいけど……無理矢理頼むものでもないし。
俺的には善意百パーセントの言葉だったが、雪染先輩は更に不服そうな顔をした。
「何それ。怖じ気づいたわけ?」
「え? いや、あの、そういうつもりは……」
ちょっと……だいぶ予想外の答えに、一瞬だけ頭が真っ白になる。雪染先輩は、ヤッパリ唇を尖らせたままだ。
「じゃあ、黙って練習頑張れば?」
顔が若干赤いけど、これは……怒っているのではなかろうか。不安になる。
ストレッチを終えてから、雪染先輩をジッと見つめた。視線に気付いた雪染先輩が、傍にあったサッカーボールを俺に向けて蹴り飛ばす。
――一瞬だけ、スカートの中が見えた。
(パンツは男物なんだ……)
『それでも全然アリ』とか思ってるあたり、俺はもう言い訳できないレベルに到達しているだろう。
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