9 / 12

第9話

 戻れるなら、数時間前に戻りたい。結果が変わらないなら、せめて……雪染先輩と出会う前に。  今日は、大会当日。勝てたら雪染先輩に告白しようと決意していた、大事な日。そんな日だというのに……俺は、サッカー部の部室で一人、膝を抱えている。 (クソ……ッ!)  もう、分かるだろう。  ――一言で言うと『負けた』のだ。  メチャクチャ走った。ボールに何回も触れたし、パス回しも絶好調。練習の時よりも、確実に動けていた筈だ。  ――たった一度のシュートチャンスを、無駄にさえしなければ。  キャプテンから回されたボールは、完璧だった。落ち着いて、真っ直ぐに蹴りさえすれば……勝てただろう。  だけど俺は、点を焦った。勝ちたい気持ちと、雪染先輩に想いをぶつけたい衝動に……結果、敵のゴールキーパーにパスでもするかのような、ヘボいシュート。  大会の会場から、部員全員でバスに乗って高校へ戻り、そこで解散。  俺はどうしていいのか分からなくて……部室で一人、蹲っている。……何て、情けない姿だろう。 (雪染先輩……っ)  試合を、見に来た筈だ。きっとガッカリしただろう。居残り練習を毎日応援してくれたのに、あんなミスをするなんて……合わせる顔がない。  ――それでも、会いたかった。  自分がこんなに女々しかったなんて、ガッカリだ。いっそ、キモい。  言葉にできない気持ちをグルグルさせていると、部室の扉が開いた。 (誰?)  部員かと思い、顔を上げる。  そこに立っていた人を見て……俺は幻覚でも見ているのかと、錯覚した。 「雪染、先輩……?」  男が着るような私服に身を包んだ、雪染先輩だ。

ともだちにシェアしよう!