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第10話
黒いパーカーに、シンプルなズボン……長い髪は一つに結んであって、女子の制服を着ている時とは雰囲気が違う。こう見ると、中性的な男って感じだ。
そんな雪染先輩は、蹲っている俺に近付いて来た。何故か、不満げな顔で。
(負けたから、怒ってる?)
あれだけご褒美を期待していたのに、負けた。雪染先輩からしたら呆れてものも言えないって感じだろう。
目の前に立ったかと思うと、視線を合わせるように雪染先輩がしゃがみ込む。
「ど、う……したん、ですか?」
怖くて、声が震える。
すると雪染先輩は……笑った。
「慰めに来たっ」
それは、スタメン入りしたあの日……初めて、居残り練習の応援に来てくれた時と、同じ顔だ。
雪染先輩は、試合を見ていた。俺のミスも、結果的に負けたことも……全部、知っている。
「……っ。スンマセン、でした……っ」
――情けない。
好きな人に、ダサいところを見られただけでなく……カッコ悪いところも見られている。これじゃあ『好きだ』なんて言えない。
堪らず俯く。すると……不思議そうな声色が、耳に届いた。
「何で謝んの?」
慌てて顔を上げると、小首を傾げた雪染先輩と目が合う。
「練習、超頑張ったじゃん。今日だってメッチャ走ったし、すっげぇボール蹴ってたじゃんか」
「俺のせいで――」
「それは自意識過剰じゃね?」
しゃがんだまま、雪染先輩が頬杖をつく。
「サッカーって、お前一人でやるもんじゃないだろ? 負けたのはチーム全員の力不足。お前だけの問題じゃねぇよ」
「でも――」
「あ~あ~! しつこい!」
雪染先輩は悪態を吐くと、俺の広いデコを指で突いてきた。
「お前の頑張りは、オレが一番よく知ってる! オレがいいって言ったら、それでいいんだよ! お前は頑張った! エライ! 終わり!」
ビシビシと、何度もデコを突かれる。一発の威力は大したことないけど、連続で突かれると、痒い。
言葉を失い、戸惑っている俺を見て……雪染先輩が突然、小さな声で呟く。
「本当に、お前が誰よりも練習頑張ってたのは……オレが一番、よく知ってる……っ」
そう言う雪染先輩の顔は、赤くなっていた。
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