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京都弁のカニ
日が暮れ、お客さんが引いたところで玄関の札をcloseにしてカーテンを閉めるボク。
ボクが中に戻った辺りにあまっちが両目ウインクをしたから、小さくうなずく。
「ケンジ、ヒートきそうやからアレやってや」
「あっ、もうそういう時期? わかった」
エステ室から出てきたけんいぬを押し込むようにあまっちは入っていった。
「では、やりまひょか」
優しく肩を叩かれて振り向くと、レッサーパンダの被り物をしたカニが微笑んでいた。
「ごめんなぁ、カニ」
「こういう時はありがとうって言うんどすえ」
柔らかい京都弁で言い、ボクの背中を支えながらリーディング室へと連れていくカニ。
「カニ、ありがとうなぁ」
引いてくれた椅子に座って言うと、いいえと返してくれた。
向かい側にある棚から迷いもなくトランプのサイズの箱を手に取り、座ったカニ。
「エンジェルオラクルカードは初めて?」
「うん、初めて」
「それならやり方をお教えしながらやりまひょね」
ふふっと笑いながらレッサーパンダの被り物を外すと、明るい茶色のポニーテールが露わになる。
一重の瞳が長い睫毛に少し隠れるくらい伏し目になり、左目の下のほくろと口元の右側にあるほくろが色っぽく見えて、少しドキッとするボク。
αの色香なのか、心を見透かされているような感覚なのか、不思議な空間に変わった。
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