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*何も知らないふたり

「すまないっ、こんなつもりでは!」 「ぁぁああ!」  ニッケの細い腰を掴み、後ろから貫く男は謝罪の言葉を口にする。  謝るくらいならすぐにやめてよ、と銀髪の少年は涙を流した。膝をついたコンクリートは冷たく、荒い表面がきめ細やかな皮膚を破り血を滲ませる。  わずかに残る理性がサイファを苦しめた。本性は牙をむき、出会ったばかりの少年を貪り食おうと凶暴に膨れ上がるのに、心の隅で冷静な自分がにらみを利かせていた。  ニッケはこの世で珍種となったΩという性別。このことを本人は知らなかったし、周りの人間も知らなかった。世の中の人間を大きく分ける2つの性以外に性別があるなど、選ばれた人間のみが知る秘密だからだ。  普通の街で、平穏な生活を送っていた少年は何も知らなかった。今日だって朝起きて、いたって普通に学校へ向かったのだ。登校途中に体が火照り眩暈が起きて、人気のない公園でしゃがみ込むまでは平凡な人生を送っていた。  人生の軌道が変わったのはしゃがむニッケに通りすがりのサイファが触れた時。意味も分からぬほどに、触れた指から熱が伝わり体に火が付いた。 「すまない」  その言葉を繰り返しながら、サイファはニッケの幼い体を貫く。性教育もまだ受けていない幼いニッケは自分に何が起きているか全く分からなかった。  混乱の波が初心(うぶ)なニッケを呑みこむ。αであるサイファの発情に流され、ニッケの体は早々と硬く反り返った性器を招き入れた。  恐ろしいはずなのに、なぜかしっくりくる。今さっき出会ったばかりの見知らぬ青年は、荒々しくニッケの腰を掴むもその肌に触れる指先は優しく、送られる視線は熱かった。   「おにいさんっ、まって、ぁぁ、んっ!」  Ω特有の愛液がサイファの性器に絡みつき放さない。二人は、生き別れていたパズルのようにかちりと嵌り、強力な磁石のようにお互いに張り付き快感を求めた。  ニッケはこの感覚が何を意味するのか分からなかった。怖いという感情はもう煙のように消えてなくなり、今では背後から出入りする熱の持ち主の顔を見たくてしょうがなかった。 「何だこれ、気持ちよすぎるっ」 「んっ!なんかでちゃうっっ!!おにいさんっ、どうしよっ、おかしくなりそぉ」  涙声の少年の背中にサイファは覆い被った。掴むところを探すように小さな手が地面を這う。薄っすらと紅く色づくその手を掴むとサイファは首筋に鼻を埋めた。  繋いだ手からお互いの体温が伝わり、体の核に火を灯す。項を噛みたい衝動が止まらずサイファは真っ白な肌に舌を這わせた。 「んーーーー!!!!!!」  ぶすりと刺さった牙は痛みを生む。どくどくと血が体内をめぐり、その違和感もいずれ甘い痺れとなった。華奢な体に注がれる精液は止まることを知らず、頭が真っ白になるほどの快感を生む。 「なんてことを…」  己が行った行為が後悔となる。自分には未成年をどうこうする趣味も噛む癖もなかったはずだ。それなのに、この少年に触れた瞬間あがなえない何かに乗っ取られるようで……   「どうしたらいいんだ……」  サイファは知らなかった。自分がαという珍種だということを。  何も知らぬ二人は出会い、繋がり、絡み合った。  いつまでも、いつまでも。  永遠と、理性を失うほどに。 Fin.

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