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第3話

    「ほら、麻生、食べろ」 「んっ」  山茶花自ら切り分けた桃を小さな口に含ませる。  番の口から滴る果汁を、山茶花はうっとりと見つめながら舐めとった。 「美味しいか?」 「はい、とっても美味しゅうございます」 「そうかそうか」  相好を崩しに崩し、デロデロに、桃にも負けず劣らずの甘ったるい笑みを浮かべて山茶花は番の唇を自身の唇で塞ぐ。  桃を食べたばかりの口内は甘ったるく、このまま食べてしまいたいほどだ。 (可愛いかわいい俺の麻生)  じゅる、と音を立てて番の小さな舌を啜り、口を離した。 「あ、ぅ……さざんか、さま」 「愛らしいな、麻生。ほら、その小さな口を開けろ、舌を出せ」  れ、と出された小さな舌を指でつまみ、ふにふにと揉む。ひく、と苦しそうに動く喉が視界に入り、山茶花はうっそりと笑う。 「あぇ……ぅ」  苦しそうに涙が溜まり始めた頃、漸く山茶花は番の舌を解放する。  はふ、と安堵の息を漏らす番は口の端から垂れた唾液を恥ずかしそうに拭う。 「ああ、こら、勿体ない」  手についた番の唾液を舐めとったあと、口の周りにも舌を這わす。そして目尻にたまる涙も吸い取った。  牙のない山茶花にとって、牙がない分、番から得る体液全てが糧となる。(血をとるためにわざわざ番に傷を作らねばならず、その度に山茶花は苦々しい思いをしていたが、体液でも糧となると知ったときは歓喜した。)特に涙は血と同じものな故、一等血よりも遥かに摂取がしやすく、よく番に涙を流させる。  山茶花は番の顔の至るとこに唇をおとす。 「麻生、おかわりはいるか?」 「はい……、ほしい、です」  小さく開けられた口に桃を一切れいれると、番は驚いたように目を見開いたあと、顔を真っ赤に染め上げた。 「? ……どうした、麻生」 もしゃもしゃと咀嚼し、桃を飲み込んだあと「なんでもないですっ」と番は顔を覆って俯いてしまった。 「麻生? どうした、なぜ顔を隠す」  くいくいと細い腕を軽く引っ張るが、番は厭厭と首を振って頑なだった。 「……麻生……顔を見せてくれ、その愛らしい顔を隠さないでくれ」  彩入が初恋だった山茶花にとって彩入に似たその顔はと大変愛らしく、それが番の顔であれば一等愛おしさが増す。 「ほら、麻生。手をどけて、俺に顔を見せてくれ」  細い手首をやんわりと掴み、甘えるように耳元で懇願すると番の細く薄い肩がびくりと震える。ますます紅潮する頬と耳。  紅くなった耳の柔らかな部分を柔く唇で食み、れ、と舐める。 「あさお」 「卑怯に、ございます……。ぼくが、山茶花さまのお声に弱いのをご存知でありながら……っ」 「麻生が好きだと言うから、よく聞かせてやろうとしているんだ」 「もう……っ」 「ようやく顔を上げたな、ほら、口を開けろ」  顔を上げた番にもう一切れ桃をやるために、山茶花は桃を口にくわえた。    

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