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第7話
ぴゅる、と小さな穴から出てきた白く粘つく体液――精液に、麻生は呆然とした。これが射精というものか。
山茶花が不在の時分、ムズムズとする股に我慢ができなくなった麻生は性器を慣れぬ手つきで扱いた。
以前山茶花に射精するにはこうするのだと実践して見せて貰っており、やり方はわかってはいた。(あの時の山茶花の妖艶な姿に随分とドキドキしたものだ。)
とろりと手から腕に伝う精液に慌ててティッシュを手繰り寄せて手を拭う。
「せいつう、しちゃった……んだよね……」
麻生の精通を今か今かと待っていた山茶花にこのことを報告しなくてはと思うが、羞恥心が湧いてくる。
いくら山茶花が待ち望んでいたこととはいえど、おいそれと他者に報告することではないのではないか。だがやはり、山茶花には報告しなくてはいけないような。
悶々と葛藤する麻生は山茶花の帰りの時刻が迫っていることには気づかずにいた。
* * * *
番の部屋に入った瞬間、強く香った桃に山茶花は首を傾げた。
山茶花の匂いを好み山茶花と同じ香りがすると言って番は洗剤やシャンプーなどの匂いを消すようなものは使っていなかったはずだ。
番に訊くか、と番を見遣ると番は耳を赤くして俯いていた。
「……麻生? どうかしたのか?」
ぱっと顔をあげた番は山茶花と目があった途端に顔を林檎のように真っ赤にして再び俯いた。
「麻生?」
「あっ、あの……っ。~~……っ」
あうあうと目線をうろうろとさせ、なにかに迷っているような素振りを見せる番に、山茶花は視線を合わせるように片膝をついた。
「どうした。一度落ち着け。深呼吸、深呼吸」
ふわふわと香る桃はいつもより濃いように思える。怪我でもして血を出してしまったのだろうか。
「あの、ですね……」
「うん」
「…………せいつうを、したんです……」
「――すまない、もう一回言ってもらえるか?」
「~~~~……っ、せい、精通をっ、しましたっ」
「――――」
山茶花は顔を両手で覆って俯いた。
――この可愛い番は今、なんと言った? 精通をしたと、言わなかったか?
ふるふると人差し指をたたせ、山茶花は「もう一度」と震える声で言ったが羞恥心が頂点に達した番は「嫌ですっ」と、こちらも顔を覆ってしまった。
「……精通を、したのか……」
「は、い……。山茶花さまがお出かけになっているあいだに……その……我慢が、できなくて」
「…………」
――見たかった。
慣れぬ手つきで性器を扱き、顔を真っ赤にして射精したであろう、そんな番の姿を見たかった。
何故こんな日に――山茶花が不在の時分に精通してしまうのか。
ふと。ふと何かを思いついた山茶花は顔をあげ、未だに恥ずかしそうに顔を覆っている番の手を掴み顔から引き剥がした。
「うえ?」
「――出した一発目の精液はどうした」
「てぃ、ティッシュで拭いましたけど……」
「ガッ――デムッッ」
無神論者の無宗教吸血鬼が神を口にするとは、と脳内の彩入が笑っているが無視。
急に叫び出した山茶花に怯える番の掴んでる腕に思わず力を込めてしまったが微かな「痛い」という声を聞き逃さなかった山茶花は番の腕を解放した。
「…………麻生、夜に俺の部屋に来い」
「は、はい……」
ただならぬオーラを放つ山茶花に、断りたかったが素直に頷いた。
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