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第10話
「他の個と比較していないのに上手だと思う要因は?」
「えっと……」
何故か死んだ目をしている親――彩入に山茶花のキスが上手いと思うところをひとつずつ挙げていく。挙げていく毎に彩入の瞳は一段と光を失い死んでいく。隣にいる麻生のもう一体の親、魚月も同じ目をしている。
(ちなみに彩入たちの後ろに控える従者も同じく目が死んでいたが麻生は気が付かなかった。)
「……麻生、ぼくとキスしてみるかい?」
「えっ、いいんですかっ?」
「駄目に決まってるでしょう」
ぱっと瞳を輝かせた麻生にすかさず魚月は食いついた。
「彩入さまがいいと言っているのですから坊ちゃんに駄目だという権利はございませんよ」
「……モンペめ……」
「もんぺ? 四位例さん、もんぺとはなんですか」
「覚えなくてもよろしいことですよ」
魚月を睨みつけていた従者は麻生にはにっこりと笑う。(従者は彩入と子どもたちには甘い。)
「これらは放っておいていいよ、麻生。……それで、ぼくとキス、してみるかい?」
「ぜ、ぜひっ」
身を乗り出す麻生を手招き、近寄った麻生を膝の上にのせた。
細い頤に指をかけ彩入は麻生の唇を塞いだ。山茶花とするときと同様に薄く口を開けていたそこへ彩入の舌が入り込む。
「んっ……」
腰に回されていた手は妖しげに麻生の腰と太ももを撫でていく。
「絶景ですね」
「……否定できないのが悔しい……っ」
ニコニコと笑いながら携帯端末を構えている従者(恐らく録画でもしているのだろう)と死んだ目をする魚月。
「――ぷはっ」
「……あっま……」
ふにゃふにゃと弛緩した麻生は彩入に凭れかかり、はふはふと呼吸を繰り返す。
彩入は麻生の背中をぽふぽふと優しく叩いた。
「麻生……桃はどれくらいの頻度で食しているんだい?」
「えっと……、いち日に一回……ひと玉を」
「そう」
唾液に濡れた唇を舐め「あまい」と彩入はもう一度呟く。
造血鬼の身体は血が多く造られるということ以外――多少頑丈ではあるが――殆どヒトと同じだ。故に病気にもなる。
甘い桃ばかり食べ続けていれば糖尿病になってしまう。それを山茶花もわかっているからいち日に一回、ひと玉だけ麻生に与えているのだろう。
「……程々にしなさい、とサンザカに伝えておきなさい、麻生」
「……? ……はい、伝えておきます」
* * * *
山茶花は顔を覆った。
生家に遊びに行っていた番から話を聞いた山茶花は顔を覆ってテーブルに突っ伏した。
「さ、山茶花さまっ? どうされたのですか?」
驚きオロオロとする番に「なんでもない」と震える声で答えながらも、山茶花は脳内で叫んだ。
――見たかった! 彩入さんと麻生のキス、見たかった!
嫉妬心すら抱かなかった。ただ純粋に見たかったと思ってしまった。
「麻生……、その、彩入さんと麻生のキスについて……もう少し詳しく……」
「え、えと……」
ふるふると震える声で懇願する山茶花。番は頬を紅潮させ言い淀んだ。
「……あ、そうだ。あの、山茶花さま。四位例さんが録画していました」
「キスをか!」
ガバッと顔をあげた山茶花に身体を震わせた。
「は、はい。ぼくと父さまのき、きすを録画していました」
「よくやった四位例さん! 今度データを貰いに行こう。否、今すぐ連絡して送ってもらおうっ」
連絡をするべく子機を取りに行った山茶花の背中を番は呆然と見つめた。
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