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第2話

「さすがに言えないだろ、おまえとのことは」 「分かってますよ。分かってますけど──」  昨今、生まれながらの性別の囚われない性別の在り方が見直され、LGBTなどという言葉も一般的になってセクシャルマイノリティーの主張や権利を認める動きが活発化してはいるが、現実は──だ。  まだまだ世知辛い世の中。  同性同士のそれを認めてくれるような心の広い人間が、果たしてこの世界中にどれだけいるのだろうか。世間は依然厳しい。自分たちのようなセクシャルマイノリティーに。  君島自身も、自分がそうであると自覚して、それを隠すことなく公表するようになってから世知辛い経験をいくつもしてきた。  ゲイだというだけで、理不尽な差別を受けたことも数えきれないほどあった。  学生時代ですらそうであったというのに、様々な年代の人間が混在する未だ閉鎖的なサラリーマン社会。そういったことを受け入れられない人間の方が多いこの社会で、ゲイであることを公言することはある意味人間関係の破たんを招くこともある。  だからこそ理解はできる。筧が、それを隠して生きたがる理由も。 「言えねぇ、っていうより、あの人だからな……」 「それも何となく分かりますよ。筧さん、あのオッサンにはいろいろ世話になったんでしょう?」 「……まぁな。とりあえず食事だけだっていうし」  君島も筧とともに何度も西東社長に会ったことがあるが、彼はどちらかといえば人間的魅力に溢れた人だ。  新人の頃から先方の担当をしてきた筧にとって、西東社長との長きに渡る付き合いで培った信頼や義理が存在するのも分かる。  そういった事情について君島も筧本人から何度か聞かされていた。それを分かっているからこそ、先方を無下にできない筧の気持ちもよく分かる。  そこが隠しきれない筧の人の好さ。クールな見た目に反して情に厚い。そんなところも君島が筧に惹かれた理由の一つだ。 「飯食ったらさっさと帰って来てくださいよ?」 「ああ。分かってる」 「言いにくいとは思いますが、社長が無理なら、娘のほうにはきっぱり断ってください」 「そのつもりだよ」 「あと──」 「……何だよ? まだあんのか?」 「帰り、俺ん家泊まってください。金曜だし、元々その予定だったし問題ないですよね? つーか、俺との先約反故にしたの怒ってんですよ。拒否権は与えませんよ」  君島が言うと、筧が君島をじっと見つめてからふっとその表情を緩ませた。  目尻に寄る皺、優し気な瞳。筧がそれの気づいているかどうかは分からないが、君島は筧のこの表情にとてつもなく弱い。 「約束破ったのは悪いと思ってる」 「それだけじゃないですけどね」  君島がまるで子供のように不機嫌な表情を隠しもせずに言うと、筧が「嫉妬か?」とからかうように笑った。 「そうですよ。俺、こう見えて独占欲の塊なんで」  平気な振りでもすればいいのだろうが、本人を目の前にあっさり嫉妬だと認めてしまうのは、いわゆる惚れた弱み。ポーカーフェイスは得意だったはずなのに、いつの間にか筧の前ではそれが出来なくなってしまっていた。 「はは。そうだったな」  そう言って白い歯を見せた筧の表情がまた妙に男らしく映るのがまた憎らしい。  ──くっそ、ムカつく!   どうして自分だけがいつもこんな思いをしなきゃならないんだ!

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