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第十六章 愛の褥であなたを求め
リーンハルトとテオドールは、運命の番。
魂で求め合うほどの強い絆。
感動と嬉しさのあまり、彼の広くて厚みのある胸板に取りすがる。
「テオ……私があなたの運命で、私もあなたの運命……なのですね」
小さく呟いたその言葉に反応したテオドールは、リーンハルトの細い腰をつかむと勢いよく抱き上げた。
彼の首筋に顔を埋める体勢になると、すぐに身体が熱を宿す。
大股で彼がベッドまで移動する途中、包帯を巻かれた彼の腕が気になった。
「テオ。下ろしてください。自分で歩けます。あなたの腕が心配です」
「大丈夫だ。腰が抜けるほど抱いてやると言っただろう。この程度で痛がってはいられない」
「本気なのですか?」
「もちろんだ。嫌だと叫んでも、リーンが泣いても、とことん抱く」
「嫌じゃありません。すごく嬉しい……」
リーンハルトは、自分の気持ちを正直に囁く。
もうオメガだと恥じる必要はないし、ヒートを恐れる必要はない。
彼に愛されているという確固たる自信があるから。
とはいえ、抱いてもらえて嬉しいなんて、よくよく考えたら恥ずかしい呟きだ。
羞恥で真っ赤になってしまった顔を、彼の首元に顔を埋めて隠してしまう。
そんなリーンハルトを、テオドールは愛おしいと言わんばかりに頭を撫で回してきた。
ベッドの脇までくると、そっとリネンのシーツに落とされる。
彼が覆いかぶさるように、リーンハルトの身体に乗り上げてきた。
筋肉の塊みたいな彼の身体に抑え込まれているのに、まったく重いと感じない。
テオドールは膝と手のひらで自分の身体を支え、リーンハルトを鳥かごのように四肢に取り込んでしまった。
彼の色っぽくて厚みのある唇が、リーンハルトの唇にゆっくりと重なる。
もうリーンハルトは、欲しいものを我慢しない。欲しいだけ求めることにする。
自ら舌を伸ばして彼の口腔内に差し入れると、すぐさまテオドールも反応してくれた。
「ふっ……ぁ……」
熱い口腔からもたらされる唾液は果物の果汁のようで、リーンハルトは貪るように彼の滑る舌を吸い上げた。
舌を伝って彼の唾液が下りてくる。それも啜り、自分の唾液とともに飲み下す。
「テオ……ふ……ん……」
ヌチュヌチュと淫猥な音が部屋中に響き、もうお互いの口まわりはテラテラと唾液で光っている。
それでもリーンハルトは、彼との口腔に舌を差し入れることをやめようとはしなかった。
そのうち我慢の効かなくなった彼のほうが、熱情を込めてリーンハルトの口腔に舌を差し込んでくる。
彼の肉厚で濡れそぼった舌が、荒々しく歯や頬の裏を舐めまわす。
歯列を左右に舌先でなぞったり、舌の根や舌をこね回すようにしてうごめかしたり、その動きはリーンハルトにも読めず、彼の舌を追いかけるのに必死になってしまう。
「んっ……ふぁ……」
甘い唇と舌に酔っていたら、彼の下半身がリーンハルトの下腹に当たった。
固く熱く、そして大きく盛り上がっている。
リーンハルトの下肢も、口づけに興奮して性器が膨れている。
だが、彼の存在感ある股間に擦られて、一番反応しているのは後孔だ。
虫が這ったような疼きがこみ上げ、もう彼の肉棒で埋めてもらいたい欲望が渦巻いている。
もじもじと足を動かすと、テオドールが口づけをしながら、リーンハルトのスラックスのボタンを器用にはずしてきた。
大きな手が下着の中に入ってくると、リーンハルトの身体がぶるぶると震える。
「ぁあっ……」
節くれた指が、リーンハルトの小さな性器を扱く。
彼の指が動くたび、先走った液がぬちゅぬちゅといやらしい音を立てた。
「んっ……ふっ……」
唇は彼の舌に惑わされ、性器は彼の指に翻弄され。
もう興奮と性愛のるつぼに巻き込まれ、意識がおかしくなってしまう。
「テオ……テオ……私ばかり……私もあなたの身体を愛したい。お願い、触らせて……」
彼の唇が少しだけ離れたときに、大胆にもそんなお願いを口にしてみる。
すると彼がリーンハルトと鼻先を摺り合わしながら、嬉しそうな顔をした。
上半身を起こし、リーンハルトの腰をまたぐようにして膝立ちする。
すでに彼のシャツは破けており、いくつかのボタンも飛んでいた。治療のため肩あたりも切り裂かれている。
彼は素早く汚れたシャツを脱ぎ落すと、潤む目で見上げるリーンハルトの手の甲を取り上げる。そのまま自分の厚みのある胸板にあてさせた。
「こうか?」
「あ……」
手のひらが熱い。彼の滑らかな肌がとても気持ちよく、そこから彼の情熱まで伝わってくる。
テオドールの腕や胸にうっすらと浮き上がる傷に、リーンハルトの胸が痛む。
アルヴァンやヘラの心ない行為によって刻みつけられた鞭の痕だ。
リーンハルトはゆっくりと上半身を起こすと、彼の胸にもたれかかった。
そのまま顔を滑らかな肌に近づける。
「リーン?」
舌を差し出し、傷の痕をヌルヌルと舐め上げる。
乳首のまわり、鍛え上げられた腹筋、脇も腕も。目に見える傷をすべて舌で愛撫する。
「くすぐったいな。リーン。どうした? おれの肌が甘いのか?」
「ええ……なぜでしょうね。あなたの身体は、どこもかしこも……いい匂いがして……美味しいです」
テオドールは困ったように笑うとベッドの上に座り込み、片足を立ててそこに腕を乗せた。
リーンハルトは身体を前倒しにし、四つん這いの格好で彼の足の間に入り込む。
頭を下げ、テオドールの引き締まった腰あたりも舌で舐め上げた。
浮き出た腰骨に男の色気を感じ、彼のトラウザーズに手をかけ、リーンハルト自らボタンをはずす。
少し前なら男の身体に欲情などしなかったのに。
いや、今でもしないだろう。テオドールの肉体にだけ、肉欲を感じてしまう。
彼の雄が欲しい。愛したい。
その感情だけで、取り出した肉棒をそっと両手で挟む。
生々しい造形のそれは、すでに硬く太く勃ちあがり、充血した鈴口を天に向けていた。
裏筋は隆々とした血管が浮き上がり、青黒い筋がドクドクと脈打っている。
逞しくて雄々しくて、これで突かれたらどれほど気持ちいいだろうなどと考えてしまう。
それだけではない。興奮したアルファのフェロモンが鼻腔に漂ってきた。
それだけで、リーンハルトの胎内で蠢くオメガの本能が、屈強な雄を欲してしまう。
「どうする気だ?」
頭上でテオドールが問いかける。
リーンハルトは返事の代わりに舌を伸ばし、亀頭の先端に舌をつけた。
「リーン……」
テオドールの色気ある声が落ちてくる。
リーンハルトは構わず唇を開き、カリの部分までそれを覆ってしまう。
こんなに大きいものをすべて頬張ることはできないが、どうしても唇と舌で愛したくて、それを懸命に舐めしゃぶった。
咽頭の奥まで先端を受け入れ、唇できゅっと肉棒の部分を締めたら、テオドールが低く唸る。
「うっ……リ、リーン……」
感じてくれているのだろうか。リーンハルトは彼にもっと喜んでもらいたくて、頬張ったまま舌でカリのあたりをピチャピチャと舐め始めた。
しばらくそれを清めるようにして丁寧に舐めていたら、テオドールに頭を押しのけられた。
上目遣いで確認すると、彼が困った顔をしていた。よほど下手だったのだろうか。
「テオ……? よくなかったですか?」
「いや……これ以上は……出そうになる」
テオドールの達した証を口腔に受けたいという卑猥な欲が心に浮かんだが、それを言葉にはしなかった。
淫乱だと軽蔑されるのが怖かったのと、それよりもリーンハルトの後孔のほうが、猛烈にテオドールの精を求めているからだ。
「テオ……テオ……お願いです。もう耐えられない。私をあなたのものにしてください」
「ああ。おれだけのものにする。けして誰にも渡すものか」
「テオ……」
スラックスと下着を奪うように脱がされ、いつの間にかボタンを外されてしまったシャツブラウスも、腕からスルリと落とされる。
テオドールも手早くシャツとトラウザーズを脱ぎ落とした。
お互い一糸まとわぬ裸になると、恥ずかしがるリーンハルトの腰を持ち、俯せにひっくり返した。
四つん這いという淫らな格好で、彼の視線に晒されることになる。
彼は手当の布があてられている背中を、そっと撫でた。
それから大きな手が尻の双丘を掴むと、左右に割り開いた。
ひやりとした空気に触れ、そこがヒクヒクと震えるのがわかった。
「あっ……」
リーンハルトのはしたない孔が、彼の視界に晒されている。
そう考えるだけで、肌がゾクゾクと粟立った。
「濡れているな」
「言わないでください……」
彼が後孔を覗き込むと、すぼみを指でくすぐるように撫でてきた。
それだけで期待と羞恥で、腰がビクビクと揺れる。
情感が高まりすぎて、その姿が淫猥だと気づかないリーンハルトは、彼の指が肉襞を伸ばすように蠢かすたび、腰をうねらせてしまう。
ヒートによって流れ出る分泌液が、ダラダラと彼の指を伝ってシーツを濡らす。
もうリーンハルトの内股は、愛の蜜でびっしょりと濡れていた。
「は、恥ずかしいです。あまり、そこばかり弄っては……」
掠れる声でそう訴えるが、テオドールの指は動きを止めない。
抗議しているというのに、二本の指をヌルッと挿れられ、左右にクパクパと拡げてくる。
そのたび分泌液がヌチャヌチャといやらしい音を立てるのが、リーンハルトには羞恥の極みだと思えた。
「や、テオ。恥ずかしい……やめて……」
「ここをしっかりと緩まなければ、リーンが痛いだろう」
「そうですが……あなたのはとても大きいので……そこまで拡げられるのは恥ずかしいです」
ついそう本音を漏らしてしまうと、気をよくしたテオドールが、リーンハルトの背後で膝をついた。
リーンハルトのしなやかな細腰を、しっかりと両手で掴む。
すぐさまリーンハルトの後孔に、彼の昂ぶった股間があてがわれる。
挿入口に硬いものが押し当たった。すでにびっしょりと濡れそぼったそこに、彼の肉棒がヌプヌプと挿 いりこんでくる。
「あっ……ぁ……」
「痛むか?」
彼が背中越しに心配げな声をかけてくる。
リーンハルトが首を振ると、彼の腰がズシンッと撃ち込まれた。
「あっ……うっ……」
肉壁をえぐる彼の腰の動きに、リーンハルトの肉孔から微弱な電流が流れてくる。
腰を覆うピリピリとした痺れに、背をそらして耐えていると、彼の腰が緩やかに前後し始めた。
すぐに彼の腰の動きが、リズミカルに動き始める。
ヌチュッヌチュッと肉棒が肉筒を激しくこする濡れた音で、部屋中がいっぱいになった。
「テオ……あぁっ……もっと……ゆっくり……それに、急に奥までこられると……」
「まだそれほど速くないぞ。それにまだ半分しか挿いっていない」
「ああっ……そんな……激しいっ……大きくて……ああっ……」
獣のような姿勢で激しく後ろから求められ、リーンハルトは渦巻く欲望に翻弄されてしまう。
オメガの本能なのだろうか。彼の腰の動きを助けるように、分泌液を自ら生み出し抽送を早める。
すると彼の肉茎が、リーンハルトの快感が高まる場所をゴリゴリと押してきた。
「はぁっ……駄目……そこは……」
「いいんだろう? ここを、こうすると……」
性急なはずのテオドールが腰を振りながら、少しだけ余裕を見せてくる。
腰の角度を変え、いいところを何回も突いてきた。
「腰をうねらせ愉悦を示しているな。もっと快楽を与えてやる。もう少し奥まで挿れるぞ」
「あぁっ……」
後孔の最奥に、彼の肉棒の先端がグイグイと押すような圧迫感がくる。
リーンハルトは背を反らして、彼の激しい動きをする熱い肉棒に酔った。
部屋の中にはベッドが軋む音と、リーンハルトの喘ぎ声、そしてヌチュヌチュとテオドールの雄がリーンハルトの胎内を擦り上げる粘着質は音だけが響く。
どれくらいの時間、彼の荒々しい男性器に苛まれていただろうか――
数分、数十分。いや数時間かもしれない。
時間の流れを見失うほどの恍惚を、リーンハルトは何回も感じてしまった。
手足の力が徐々に抜けていくそのとき、テオドールの腰が最高潮に速く動いた。
リーンハルトも快楽の波に浚われるように、自ら腰を波打たせる。
手足がガクガクと震える。全身が愉悦でガクガクとする。
頭の中が真っ白になり、もうこれ以上擦られたら気を失いそうというその瞬間。
後孔に生暖かい液体が噴出された。
「あぁ……」
リーンハルトの腰が悦びでぶるりと震え、リーンハルトの後孔内でテオドールの肉棒も震えていた。
逐情してからも、最奥まで挿し込まれた肉棒の先端から、できる限り多くの子種を絞り出そうと押し込んでくる。
「いっ……いい……」
リーンハルトが荒ぶる激情に悦びを示していると、テオドールが上半身を倒しリーンハルトのうなじに噛みついた。
「はっ……ぁあっ……!?」
身体中が雷に打たれたみたいに痺れた。
ブルブルと小刻みに震え、耐えがたい快感に意識が遠のきそうになる。
テオドールがどうしてうなじを噛んだのかは知らないが、どうしてそこを噛まれただけで、こんなにも身体が衝撃を受けるのかはもっとわからない。
テオドールがリーンハルトのうなじから歯を離すと、今度は舌でピチャピチャとそこを舐めしゃぶった。
「うっ……ぁあっ……」
そのままシーツに顔を埋めるように突っ伏すが、テオドールはまだうなじを舐めている。
「どうして……」
「よかったか? リーン」
テオドールがリーンハルトの後孔に挿入したままの姿勢で、ずっとうなじを舐めている。
まるで毛繕いをする獣みたいだ。
不思議に思い首を捻って肩越しに彼を見上げた。
「あなたには、噛み癖があるのですか? 知りませんでした。あなたがそのような嗜好でしたら我慢いたしますが……少々痛かったです」
真顔で言うリーンハルトに、テオドールは目を見開く。
「可愛い、可愛いな。リーン。これは違う。運命の番の儀式だ」
「儀式?」
「そうだ。アルファが番にしたオメガのうなじを噛む。まあプロポーズみたいなものだと思ってくれ」
これがプロポーズと聞き、リーンハルトは首を傾げる。
だが不思議と満ち足りた恍惚感で、身体も心も満たされているから本当なのかもしれない。
すると、彼の言葉に誘発され、うなじがムズムズと疼いてきた。
「そうですか。あの……お願いがあるのですが……」
「なんだ?」
「それならば、もっとうなじを噛んでください。本当の意味で、テオのものになったような気がします。それに……」
リーンハルトはおもむろに、彼の挿し込んでいる楔が抜けないギリギリのところまで、自ら腰を前後に揺らした。
「物足りません。腰が抜けるほど抱いてくれるのでしょう?」
テオドールが嬉しそうに笑うと、リーンハルトの腰をしっかりと掴む。
「淫乱なオメガになったものだ」
「ええ。あなたにだけしか身体が欲情しないのですから、ちゃんと責任を取ってください」
後孔の中で、いったん大人しくなった彼の肉棒がムクムクと大きく育っていく。
「もちろんだ。リーン……おれのものだ。一生手放さない」
愛の言説に、リーンハルトは至上の歓びを感じた。
「私もあなたから一生離れません。ずっと抱いていて、壊れるほどに……私の愛しいテオドール」
リーンハルトの心をすべて吸い取っていくかのように、テオドールが鮮やかな笑みを見せた。
彼が上体を屈めると、歯形のついたリーンハルトのうなじに再び歯を立てる。
何度も何度も噛み、そして舌で舐めてからリーンハルトの耳元に唇を寄せた。
「望みのままに。おれの運命の番、愛するリーンハルト」
この世の誰より逞しく凛々しく高潔で、そして優しい男が、リーンハルトに至上の愛を囁いた。
§§§
その後、ヴェンデル王城の王室専用地下牢から、いつの間にかヴェンデル王家全員が脱出していたのが発覚した。
ヴァルターが抜かりなく、そう手配していたと推測される。
結局ヴェンデル王家の人間は誰一人捕まらなかった。
見事なほどに、どの関所でも引っかからなかったとのことで、国外に逃亡したのか、それとも国内に潜んでいるのか、それすらも謎のままだ。
再び王座に返り咲きたいと、在野で虎視眈々とチャンスを狙っているのかもしれない。
不安がるリーンハルトに、テオドールは動じない姿勢を見せる。
「再びおれを狙うというのなら、受けてたとう」
テオドールは必要以上に追っ手を差し向けなかった。
その後、テオドールは新制ヴェンデル王国の統治者となり、アステア公国を筆頭に保護国とよい友好関係を保ち続けていく。
リーンハルトは彼のよき妻となり、さまざまな面で彼を支えた。
新制ヴェンデル王国が、ふたりの愛ある治世によって更なる発展を遂げるのは、そう遠いことではない。
end
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