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第4話

 見た目どころか勉強の出来も天と地ほどさがあるってのに、あいつは俺を幼馴染だと公言し続ける。俺んちに来るのだって夜にちらっと少しだけなのに、そのアピールは一体なんなんだろう。暗いやつにも優しい俺! でも演出してんのか? 暗いやつって自分で自分に言うと結構落ち込むな……。  そしてそれによってしわ寄せが来るのはいつも俺だ。特に怖いのは女子の視線だ。あいつのくせに生意気って言われても、俺が望んでこうなったわけじゃない。むしろ今はどこにも幼馴染要素がないので多めに見て欲しい。  何がしたいのかわからないけれど、幼馴染じゃないって言われるのも怖い。情けないけれど、本当はそう言ってくれることが少しだけ嬉しいと思う自分がいる。  そんな淡い青春物語を描いていた時が、俺にもありましたよ。つい、さっきまでね。  一緒に帰ることなんてもうほとんどなかったのに、今日、何故かあいつが俺のクラスへやってきた。  女の子でも迎えにきたのかとちらりと横目で見たら、ちょいちょいと手を拱いた。え? もしかして俺? 突然のことに深く考えずにあいつのもとへ駆け寄る。俺に用事があるなんて本当に珍しい。本当に、希少なんだ。家の鍵でも忘れたか? いや女の子ん家でも行けよ。  どれだけ珍しいことなのかを、あの時もう少しでも考えていれば事態はもうちょっとマシな方向に向かっていたのかもしれない。 「この後時間あるだろ? 友達いないもんな、あるよなぁ」 「うるさい。友達はいるし、お前とは出かけない。なんだよ急に声かけて来たと思ったら……」 「カラオケ、行かない?」  行かない? じゃあないよ。俺相手にキメ顔やめろ。珍しく学校で声をかけて来たと思ったらそんなことか。カラオケに行ったって俺はどうせ置物同然で隅の方に座ってるだけで終わる。歌なんて得意じゃないし、お前の歌を金払って聞こうとは思わない。  無視して帰ることも出来たけれど、なんだかそれは憚られた。というより、俺の中で何か引っかかって気持ち悪かった。俺のことを幼馴染だって公言する割に、学校ではほとんど話しかけてこないやつが、どうして急に俺を誘うんだ。裏があるなら早く逃げてしまいたい。ボロを出せ、俺はお前のアクセサリーじゃない。 「……なんで。いつもいる奴らと行けばいいだろ」 「一人来れなくなってさあ、困るんだよ。頼む」 「一人くらいいなくたって死なねえよ。っつか、女の子でも足せ」 「それが合コンなんだよ、男の人数足んなくてさ。なぁ、頼むよ」 「……だから、それがなんで俺なんだよ」 「幼馴染だろ?」  頼むって顔の前で手を合わせてぺこぺこと頭を下げる幼馴染に、了承しない俺が悪い空気が立ち込める。こいつ、わざとだ。わざと人のいるところで、こんなことしてる。断れない空気を作るずる賢さにかちんと来た。  おうおう、そっちがその気ならこっちにだって考えがある。まず、なんだその人数合わせ丸出しの誘い方。どうせ俺なんか人数合わせが精いっぱいですよ。  そうか、俺が行ってわざと空気を壊してやれば二度と俺を誘おうとは思わないだろ。一度きりの我慢じゃないか、それで俺にもううざ絡みしようと思わなくなってくれたら、知らない奴らとの合コンなんて安いもんだ。  静かな毎日を手に入れるために、俺は合コンというミッションに向かうことを決めた。 「お前のおごり?」 「うん、当然。それなら来てくれる?」  ぱあっと明るい顔になったのを腹の底で笑いながら、仕方ないなって顔を無理やり作る。作った顔なんて初めてできっと下手くそだけれど、俺の了承を得てご機嫌な幼馴染はきっと気付いちゃいない。  腐れ縁もこれで最後になる。清々する気持ちが大きいのに、その隅の方で少しだけ、俺の知らない感情が小さく震えている。勿論そんなことには気づかないフリをする。そんなの絶対気のせいだから。

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