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第6話

「新しいのあった……!」  取り巻きAが嬉しそうに声を弾ませて部屋へ戻ってきた。どれだけ嬉しかったんだよ、持ってるコップは空のままだ。  もう片方の手にはハンガーにかかったナース服だった。いや、なんで持ってきた? げらげら笑う取り巻きBと幼馴染と正反対に女の子が来てもないのにわざわざ持ってきちゃうテンションに俺はついていけない。  呆れていると妙な空気が部屋にたちこめ、しんと静まり返る。ぎょっとして顔を上げると、取り巻きAと目が合った。にやりと歯を見せて笑っているのに目の奥がちっとも笑っていない。じわりと背中に嫌な汗が流れる。この展開は知ってる。  こういうやつ等はすぐに調子に乗る。楽しいことに目がなくて、自分以外の誰かをすぐに犠牲にする。  今ここで最も犠牲者に近いのは間違いなく俺だろう。むしろ俺しかいない。体格的に着られるのも俺しかいない。女の子が来るまで待つつもりならこんな空気にはなってないはずだ。  ハンガーにかかったナース服が揺れながら近づいて来る。俺の前に仁王立ちになってずいっとナース服が俺の目の前に差し出された。 「ちょっと着てみてよ」 「いやだよ、俺男だっつの」  おそらく押し切られる。というより、断り切れないのは目に見えている。それでも精一杯の抵抗はさせてくれ。おごってもらうんじゃなかった、向こうに分があるじゃないか。 「知ってる知ってる。女の子に着せる前にちょっとほら、見ときたいだけだから。ね?」 「そんなもん、普通だって。なんで俺が。女の子待てばいいだろ」 「いいじゃん、ちょっとだけ。ほら、女の子に着てもらってイマイチだったら悪いし?」 「俺だったらイマイチでもいいのかよ」 「むしろ似合うと思ってないから」 「似合わないことなんてわかってんだよ、どんなもんか知りたいだけだから、いいだろ。それとも何。逆にそういう趣味があるから無理ってこと?」  悪い顔で俺を追い詰めたのは幼馴染だった。ここで断れば俺に女装趣味があるって噂があっという間に学校に広がるだろう。くそくそくそ。予定外だ。ただタダ飯食って帰るはずだったのに……。 「着りゃいいんだろっ」  奪うようにハンガーを取って、ソファに放り投げた。女の子が来る前に終えてしまおうとボタンに手をかけると幼馴染がその手を止めた。 「隣空いてるから、あっちで着替えてきて」 「めんどくさい」  しかめっ面で不満を全開に反論するものの幼馴染の表情は冷たいまま、俺よりも強い口調で隣に行けと繰り返す。見えないところで着替えてジャジャーンと登場するなんて度胸俺にはないっつの。それでも到底逆らえない強い視線に仕方なくハンガーを片手に部屋を出る。アイツの言った通りとなりは空いていて勝手に使っていいのかわからないけど、ドアを閉めてこっそりそこで着替えることにした。  ナース服なんて着たことないけれど、さすがはコスプレ衣装だ。マジックテープでべりべりと簡単に着脱できる。着脱……あー、そうだよな。着ることよりむしろ脱ぐために着るもんだもんな。瞼が半分落ちてずうんとテンションも落ちる。洗濯はされてそうでよかった。心を無にして袖を通す。どうしようか悩んだけれど小言を食らうのが嫌で、自らナースキャップも頭に乗せて元いた部屋へと戻った。 「チェンジで」 「チェンジ」 「ぶっ、ぎゃははは……想像以上っつか想像以下っつうか……やべ、ウケる」  しばいたろか……!  部屋に入るなり散々な評価だ。ナースにチェンジのシステムはねえよ。お前らが入院したらどじっこナースが担当になってあれやこれミスされてしまえ。呪いをかけてやる。くそ。まあ思いの外早く終わってよかった。こんなリアクションってことはもう脱いでいいんだろ。チェンジらしいし……代わりはいないけど。

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