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第3話 思い出

 一般道から高速に入り、車の窓から流れる景色を見ながら昔の事を思い出す。 - - -  あれは五年前。白い漆喰の壁と古い瓦屋根の住宅前でオレは今日の様に待機していた。 額から嫌な汗が幾度となく滴り落ちて、9月も終わりだというのに暑い日差しに晒され、乾いた唾をゴクリと飲み込む。 平屋だが、かなりの広さがあるのだろう。門から入って十数メートル歩き、やっと玄関先に着いたオレの目に映ったのは、桔梗の花が群生して咲き誇る広い庭の風景。 そんな景色を堪能する余裕もなく、畳んだ車いすを持つ手が汗ばんでいたのは、初めての出動で緊張していた事もあるがもう一つ、搬送する予定の患者さんがちょっと特殊で.....。 「内田くん、さっきシミュレーションしたとおりにすればいいから。緊張するのは分かるけど、俺もこういうの経験少ないからさ・・・。」 躰に力が入るオレの横で、山岡先輩が言った。 柔道をしていただけあって、いい体格をしている山岡さんはオレを面接した人でもあった。 あの日、面接室のドアを開けるなり「すごいな、何センチ?」と聞かれ、ポカンとしているオレに「身長、だよ。180以上はあるよな?!バスケやってたって?」 矢継ぎ早に質問されて、「185です。中、高とバスケやってました。」 それだけ答えると、「はい、採用!!来週から研修な。」と言われた。 そんな先輩でも、まれなケースと言っていたのが今回の依頼。 山岡さんに大丈夫かと聞かれ、「は、い・・・大丈夫です。多分・・・・」 何とも頼りない返事をしたオレだが、この先にどんな事が起こるのか、分かっていなかったから......。 先に、もう一人の先輩の江口さんが、依頼主の人と中で話をしていた。 搬送するのは依頼主の姉で、精神を病んでいる方らしい。 ずっと病院にも行かず家の中にこもっていたが、最近自分の息子に危害を加えるようになったとかで、見かねた弟が病院に連絡して措置入院をさせる事となった。 精神を病んだ人は、自分で入院を希望する人が少ないのだろうか? 内科の病気とか、そういうものなら否応なしに入院しなければならないのに。 大きな男が3人も寄って、一人の女性を病院へ連れて行くなんて・・・・

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