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第7話 束の間の安堵感

 少年の黒くて大きな瞳は、15歳にしてはあどけない表情を作る。 顔だけ見れば女の子のようで、まだ男になる前の躰の線は細くて儚い。少し力を入れて押さえればポッキリと折れてしまいそうだった。 「もう着きますから!」 江口先輩の声で、オレと山岡さんにも緊張が走る。医療スタッフとの連携で、病室に運ぶまでが至難の業だと思った。 さっきの暴れ方や暴言がまた復活してはたまらない、と思いながら準備をする。 「着きました!では、病室へ案内します。」 そういうと車両のドアを開け、車いすを降ろした。 女性はまた叫び出すが、ここは通常の入口とは違う。 一般患者の目に触れない様に別のドアから入ると、待っていたスタッフの指示で動いた。 オレたちの役目は、病院への移動サポート。 後は家族と搬送先の病院にゆだねるしかない。 女性はそのままスタッフに病室へと連れていかれた様で、オレたちがしばらく廊下で待っていると、さっきのスタッフが空の車いすを押して戻ってきた。 一緒に待っていた男性は、オレ達に向かうと深々と頭を下げる。 「ありがとうございました。本当に助かりました。姉に治療を受けさせたかったんで、ホッとしました。」 「いいえ、今まで大変でしたね。お姉さん、良くなられるといいですね。」 依頼主に感謝の言葉をもらい、江口先輩がそう言った。 「はい、きっと良くなると思います。ありがとうございます。」 更に頭を下げられて、こちらも同じように深くお辞儀をした。 その後料金を現金で頂き領収書を渡すと、オレたちは整列して挨拶をする。 目の前には、依頼主の小柄な男性とその男性に手を繋がれた少年が並ぶ。 親子ほどの歳は離れていなさそうで、少しだけ違和感を覚えたが、オレの脳裏に焼き付いた二人の顔は未だに忘れられないものとなっていた。 あれから5年後・・・・。 まさか、こうして二人の姿を再び目にするとは思ってもみなかった。

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