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第10話 ミクという名で

 ヨシヒサくんの顔は見ないまま、男性はまた話し出す。 「姉は、結局1年後に病気で他界しました。それで、ボクがあの家に移り住んだんです。ミクは、・・・ああ、ミクっていうのはこの子の呼び名で、美しいに、久しいと書くんですが、姉もミクって呼んでましたから。・・・ミクは、大学まで繋がっている学校に通っていたんで、転校させるのも可哀そうかと思って。」 「そうだったんですか・・・お姉さん、残念でしたね。」 あの日、あそこにいたオレたちみんながこの子の幸せを願ったし、治療を終えたお母さんとまた暮らせるものだと思っていたんだ。それなのに・・・・・。 「そうだ、ここで会ったのも何かの縁でしょう、出来たらミクの事を時々気にしてやってもらえませんかね?」 男性はオレを見つめるとそういうが、「何言ってんだよ。僕は帰らないよ、ずっと一緒にいるんだ。」 縋る様にヨシヒサくんが言って、繋いだ手を強く握り締めた。 「・・・ダメだよ。病院には来たらダメだ。明子の家に着いたらそこで降りて待っていなさい。ボクを送り届けた後で、ミクはこの人たちに連れて帰ってもらう。そういう契約をしたからね。」 「え、・・・・」 知らされていなかったんだろう、驚きと一緒に顔には悲壮感が現れる。 「嫌だ、いやだ・・・」 「ミク・・・・ボクを早死にさせたいのかい?」 「・・・・・」 目の前の二人の会話を聞きながら、どれだけの愛情を注いで育てられたんだろうと思った。 ミクと呼ばれる彼はあの日と変わらず華奢な躰のままで、身長もまだ伸びる途中なのか、オレよりも20センチ位は低かったし手足も細いままだったが血色はよかった。 何より、叔父さんを見る眼差しは暖かく、心から慕っているようで。 「すこし、時間がかかってもいいですよ。気持ちが落ち着くまで、私たちはお待ちしますから、着いてからゆっくりお話ししてください。」 そう言ってオレは二人を見る。 車はいつの間にか高速を降り、緑の生い茂る景色へと変わっていた。

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