30 / 153
第30話 再びの…
スープが出来るまでの間、洗濯物を取り込んで適当にボックスにしまう。
夕方といってもまだ日差しは強くて、目を細めながらなんとなく上空に目をやったが、青空が薄い紫の雲と交わってその隙間から放たれる光を見ると、なんだか心が洗われるようだった。
あの光は人を選ばず、誰にでも見ることができる。
顔に当たった光の熱を感じると、なぜかアイツの事が頭をよぎった。
どうしてだろう、目を閉じるとあの時の顔が浮かぶ。あの、何もかも捨ててしまったような、魂の抜けた瞳。
- 藤谷 美久
「ミク」なんて可愛い呼び名をもらってるわりに、あの変わりようは・・・
カワイイ顔して、あんな酷い事をするなんてな。
どうせなら、庭の雑草でも刈っときゃいいんだ。あんなに草ぼうぼうで。
でも、どうして桔梗だけはきれいに咲かせていたんだろう・・・
隆哉さんが手入れしていたとは思えないし........。
「大嫌い」って言ってたな。・・・・・どうしてだ?
5年前もあそこには桔梗が咲いていた。きっと昔から咲いているんだ。
桔梗は根っこがどんどん伸びて、結構強いんだ。必ず次の年も咲くって、死んだオフクロが言っていたような気がする。
- 時々気にかけてやってくれ・・・なんて、言われてもなあ・・・。
あんな事があって、オレの顔を見たら気分悪くするだろうし、オレだって嫌われてまで見に行く必要もないしな。
っていうか・・・・なんで、隆哉さんはオレにあんな事を頼んだんだろう。
あの人は、アイツのあんな性格を知っていたんだろうか・・・
気になりつつも、コンロの鍋がグツグツうるさいから、火を止めてひとりで味気ない夕飯を食べることにした。
- - -
それから暫くして、オレの気がかりがどこかで通じたんだろうか、オレは予期しない事で再び藤谷家へ足を運ぶ事となる。
ともだちにシェアしよう!