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第31話 どうしてオレ?
眠い目を擦りながら会社に着くと、まだ営業時間前だというのに高木さんが電話を受けていた。
この仕事はほとんどが事前予約という形で受けるから、あまり急な依頼はない筈。
長野さんが、向かいの高木さんの様子を見ながらオレに目配せをしてくる。
何かと思って近寄って行くと、
「大変だよ。内田くんにご指名入っちゃったみたい。」
「は?・・・ご指名って・・・?!」
タクシーでもないのに、指名制度は無いよな。人数合わせしかしない筈。
「何言ってんですか?オレ、ホストじゃないですよ。」
と、少しだけふざければ、いつものノリのいい長野さんが複雑な顔をする。
一体どこからだろうと気になって、高木さんの手元のメモ用紙を覗くと、《ふじたに》と書かれていた。
オレの心臓がキュツと掴まれた気がした。
まさか、またあそこへ行くのか?一体誰が、他に住人はいなかったはずだけど・・・
「はい、分かりました。では夕方4時ごろ伺います。・・・はい。・・はい。失礼致します。」と言うと、高木さんは含みのある表情で受話器を置いた。
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