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第32話 指名って・・

 オレと長野さんが見守るなか、こちらを振り返ると高木さんがオレの顔を見る。 「・・・な、何なんですか?急な仕事ですか。藤谷さんて、この間の?」高木さんを見つめると、一瞬眉を寄せる。それからすぐに彼女はこう言った。 「この会社も指名制度を取り入れるべきだね。リピート客を掴むにはそれしかないよ。」と。 全く意味が分からない。 「で、藤谷さんをどちらまでお連れするんです?まさかタクシーがわりじゃないでしょうね!」 たまにタクシーの様に使おうとして、料金聞いて目が飛び出るほど驚く人がいるから。 「息子さん、腕の骨を折っているらしくて、病院へ連れて行ってほしいって。なんか3日前に折ったらしいんだけど、一人でバスを乗り継いで行くのは大変で、連れて行って家に帰るまでお願いするってさ。」 高木さんが言うから 「なんでオレなんですか?誰でもいいじゃないですか、長野さんも今日の出動はないでしょう?」と聞く。 「だって、あのデッカイ人に。って言うんだもの・・・内田くんより大きな人っていないでしょ?よろしくね!」 そう言い放つと、予定表に書き込む。担当(内田)と書かれて、複雑な気持ちになった。 普通のタクシーを呼んで行った方がどれだけ安上がりか。 終わったら又タクシーを呼べばいいんだから・・・ 料金を聞いても断らなかったって事は、案外お金に不自由はしていないんだな、と思った。大学へ通って、あの大きな家に一人で住み、お金の心配もしなくていいなんて、なんという贅沢な・・・ そこでまたオレは、自分の生い立ちを思い知らされる。全く・・・気が重い。

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