49 / 153
第49話 素直なのか?
オレは、勝手にヨシヒサくんを暗い子だと決めつけていた。
彼の纏う空気は、オレに昔の出来事を思い出させる。だから、余計にそう感じたのかも。
「こっち、・・・これに乗ってきたんだ。悪いな、軽自動車で。」
そう言ってカギを解除すると車に乗り込んだ。
「へ、ぇ・・・。てっきり身体が大きいから、デカイ車に乗ってるんだと思ってた。」
助手席に乗り込んで、ヨシヒサくんが言う。
オレの頭が天井に届きそうなので、クスッと笑いを堪えるが、オレと目が合えばついに堪えきれずに吹き出した。
「おいおい、失礼だろ・・・。」オレが言えば「ごめんなさい」と謝る。
案外、彼は素直な性格なのかもしれない。
というか、どこか大人になりきれていないんだろうな。
「ところで、本当に店の方は大丈夫なのか?ちゃんと他の店員に頼まなくてよかった?」
「大丈夫だよ。本当はもう一人いたんだ。奥に入ってただけで・・・」
「あ、そうなのか!・・・よかった、無人になったんじゃなくて。」ホッと胸を撫でおろしたオレ。それにしても、こんなに好き勝手に働いていて大丈夫なのか、と思った。
隣で屈託のない笑顔の彼を見ると、この前聞いた江口さんの言葉がウソのように思える。
確かに傷は負っていたんだけど、今の彼にはそんな事を感じさせる要素はなかった。
何処にでもいる、ごく普通の大学生。
少し違うのは、ちょっと顔が綺麗すぎるって事だけだ。
ほんの短い時間を過ごしただけなのに、オレはすっかりヨシヒサくんのペースに巻き込まれてしまったようだった。
ともだちにシェアしよう!