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第56話 おいしい話。

 水道の蛇口をひねって水を出すと、自分のカップを洗いはじめる。 「真面目っていうか、固いっていうか・・・」 言いながら、後から来たヨシヒサくんがオレの横に立った。 「俺、家賃払ってなんて言ってないじゃん。・・・家の管理する手伝いをしてくれるんなら、タダでいいんだ。時間のある時、庭の草むしりとか使っていない部屋の換気をしてくれたりすれば、それでいい。」 「・・・え?・・・タダ?」 隣の彼に向き直ると聞き返した。こんな広い屋敷に住んでタダなんて・・・。 「そうだよ。ちなみに駐車場代もいらない。まあ、くれるっていうならもらっておくけど。」 「や、・・・」と、言いかけて少し考える。 アパートの家賃と駐車場代も無いんなら、少しづつでも貯金ができる。奨学金も早く返せるな・・・。 「本当に、タダで住めるのか?・・・こんな屋敷に?」 「屋敷って程立派なものじゃないって。古いだけの家だよ。内田さんが暇なときに雑草抜いてくれればいいし、これだって業者を入れたら十万単位の金額を取られるんだから。」 「う・・・ん。そうだな、確かに業者へ払う分と考えたら、オレの家賃代ぐらい安いか。なら、住んでもいいや。」 ちょっと、目の前の美味しい話に食らいついた感はあったが、オレはヨシヒサくんに返事をすると右手を差し出した。 オレを見て、ヨシヒサくんも右手を出すと互いに握手を交わす。 「じゃあ、よろしくお願いします。」 「こちらこそ、お願いします。」

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