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第57話 見守る事

 以前、隆哉さんから頼まれた事が気になりつつも、ここへ足を運ぶ事が出来なかったオレだったが、これで胸のつかえも少し取れるような気がした。 ヨシヒサくんが背負ってきたものは、今さらどうしようもないし、背中の傷が消えるのかどうか分からない。でも、これから先の彼の人生がどうなるのか、この目で見守る事は出来そうだ。 いずれヨシヒサくんに好きな人が出来て、この家でそいつと暮らす日が来るまで、オレは見守っていよう。  「はよ~っす!」 オレがドアを開けて事務所に入った途端、そう声を掛けたのは山岡さんだった。 「あれ、今日は有給休暇じゃなかったでしたっけ?」と、机の上に荷物を置いて言えば、 「それがさ~、、、子供が熱出したとかで、今日の面会は中止になったんだよな!」 山岡さんは離婚して、小学生の息子さんと離ればなれに暮らしていた。 月に一度、面会といって息子さんと会えるらしいが、それが中止になったと聞いて気の毒だと思った。 「やっぱり可愛いでしょうね、息子さんの事。」 見た目は格闘家の様な山岡さんだが、子供の前ではデレまくりなのを知っている。以前、会社の飲み会の後、山岡さんの奥さんが居酒屋へ迎えに来た。その時息子さんが一緒に乗っていて、子供の顔を見た途端に目尻がダラ~ンと下がっていたから。 「そりゃあな、かみさんは他人になっても、子供は永遠に俺の血を分けた子供だもん。可愛いのは当たり前だよ。」 「そうですね・・・」 と言ったが、ふとヨシヒサくんの事が頭をよぎる。 彼はなんで母親から虐待されていたんだろう・・・ 自分と顔立ちがそっくりで、あんな可愛い子を傷つけるなんて、ちょっと考えられなかった。

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